最新記事

米朝会談

米朝「物別れ」を中国はどう見ているか? ──カギは「ボルトン」と「コーエン」

2019年3月4日(月)13時15分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

なぜなら、拡大会議が始まる前までは、トランプ大統領は金正恩委員長を「素晴らしい指導者だ」と持ち上げ、「われわれは特別な関係にある」と、讃辞を惜しまなかったからだ。そして朝鮮戦争の終戦宣言というプレゼントをしてもいいと思い、さらに共同声明に署名すべく、共同声明文まで用意していた。そうでなかったら、70を過ぎた大統領が地球を半周するほどの距離を飛んでハノイまで行きはしなかっただろうし、また金正恩にしたところで、事前の良い感触がなかったら、70時間近くもかけて約4000キロの陸路を平壌(ピョンヤン)からハノイまで揺られることを選びはしなかったにちがいない。

謎を解くカギは「ボルトン」と「コーエン」

ではなぜ、友好的なムードがいきなり断ち切られたのだろうか?

その謎を解くカギは国家安全保障問題担当のボルトン大統領補佐官とトランプ大統領の元顧問弁護士だったコーエン被告の存在にあると筆者は見ている。

なぜなら、ボルトン氏はベネズエラの対応に追われて、本来なら米朝首脳会談前に韓国で行なわれることになっていた日米韓閣僚級会議への出席も断っていたのに、なんと28日のハノイにおける拡大会議にはボルトン氏の姿があるではないか。これでは(通訳を除いて)北朝鮮3人に対してアメリカ側は4人となり、人数的にも釣り合わない。

実は、対中問題でも超タカ派のボルトン氏が、ハノイでの米朝首脳会談に出席できないことに中国メディアは注目していた。

トランプ大統領にしても、ボルトンがいなければ、ロシア疑惑などで厳しい立場に追い込まれている状況から目を逸らさせるサプライズのような外交成果を金正恩委員長との直接会談を通して上げることができるかもしれない。ノーベル平和賞を口にするほど、歴代のどの大統領にもできなかったことを、このトランプは成し遂げることが出来るという自負があってこそ、ここまで飛んできたはずだ。

だというのに、ここに来て突然、ボルトン氏の出席を許したのはなぜだろうか?

それは、取りも直さず、この記念すべき米朝首脳会談の第一日目である27日に、コーエン被告の公聴会を米下院がぶつけてきたからではないのか。トランプ大統領が米朝首脳会談を2月27日および28日と決定したときには、コーエン被告の公聴会はいつ開かれるかは決まっていなかったし、開かれるとしてもずっと先のことで、ひょっとしたら開かれないかもしれないという観測さえ飛び交っていた。それがピッタリ、米朝首脳会談の第一日目にぶつけてきたのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

シリア暫定政府、国防相に元反体制派司令官を任命 外

ワールド

アングル:肥満症治療薬、他の疾患治療の契機に 米で

ビジネス

日鉄、ホワイトハウスが「不当な影響力」と米当局に書

ワールド

米議会、3月半ばまでのつなぎ予算案を可決 政府閉鎖
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:アサド政権崩壊
特集:アサド政権崩壊
2024年12月24日号(12/17発売)

アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、何が起きているのか?...伝えておきたい2つのこと
  • 4
    「私が主役!」と、他人を見下すような態度に批判殺…
  • 5
    「たったの10分間でもいい」ランニングをムリなく継続…
  • 6
    トランプ、ウクライナ支援継続で「戦況逆転」の可能…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 9
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 10
    映画界に「究極のシナモンロール男」現る...お疲れモ…
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 3
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達した...ここまで来るのに40年以上の歳月を要した
  • 4
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 7
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 8
    【クイズ】アメリカにとって最大の貿易相手はどこの…
  • 9
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 10
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 4
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 5
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 8
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 9
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 10
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中