最新記事

米朝会談

米朝「物別れ」を中国はどう見ているか? ──カギは「ボルトン」と「コーエン」

2019年3月4日(月)13時15分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

もしトランプ大統領が米朝首脳会談で大きな成果を上げて、国内におけるスキャンダルを帳消しにしようとしても出来ないように、民主党が多数派を占める米下院が狙い撃ちしたのだろう。

案の定、コーエン被告は公聴会で「トランプ氏は人種差別主義者、詐欺師、ペテン師だ」と言ってのけた。そしてロシア疑惑や不倫相手への口止め料支払いなど、顧問弁護士として知り得た情報を全て暴露してしまった。

この上、もし北朝鮮に甘い顔を見せて譲歩したりなどしたら、トランプ大統領が受けるダメージは計り知れず、立ち直れなくなってしまうかもしれない。そこで、ボルトン氏が突如姿を現して、昨年来主張してきた「もう一つの秘密ウラン濃縮施設(カンソン)」の存在を金正恩委員長の前で突然披露して譲歩を迫り、金正恩をたじろがせたのではないだろうか。北朝鮮が「もう一つの秘密ウラン濃縮施設」の存在を認めないことを知り尽くしているボルトン氏は、金正恩が譲歩しないことを以て、トランプ大統領に共同声明への署名を諦めさせ、アメリカ国内における大統領の地位を守ってあげたというのが実情ではないかと思う。

だからトランプ大統領は、渋々「物別れ」の道を選び、しかし金委員長には笑顔を見せながら別れの握手をした。

ここまでの理論武装をした上で、朝鮮半島問題に詳しい、中国政府の元高官を取材した。

米朝「物別れ」に対する中国の見解

以下、Qは筆者で、Aは中国政府の元高官である。

Q:このたび、ハノイ会談で米朝が物別れになった原因に関して、アメリカは「北朝鮮が制裁の全面解除を求めてきたから」と言い、北朝鮮は「全面解除など求めていない。求めたのは、あくまでも一部解除だ」と言っていますが、これをどう思いますか?

A:まあ、どう考えても北朝鮮の言い分の方が正しいだろう。なぜなら金正恩は、何度も習近平に会って、「段階的非核化と、それに相応した段階的制裁解除」という戦法を習近平も支持することを確認し合ってきた。アメリカとの間にまだ十分な信頼関係が築かれていない現状で、仮に金正恩が全面解除などと言ったとしたら、習近平との約束を破ったことになり、四面楚歌になるだろう。今の金正恩には、そんな無謀な勇気はないはずだ。全面解除を要求するなら、北は核申告リストの全面公開をしなければならない。しかしそれは、アメリカとの間でよほど深い信頼関係を築いていなければ実行できない事情も習近平は理解している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独クリスマス市襲撃、容疑者に反イスラム言動 難民対

ワールド

シリア暫定政府、国防相に元反体制派司令官を任命 外

ワールド

アングル:肥満症治療薬、他の疾患治療の契機に 米で

ビジネス

日鉄、ホワイトハウスが「不当な影響力」と米当局に書
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:アサド政権崩壊
特集:アサド政権崩壊
2024年12月24日号(12/17発売)

アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、…
  • 5
    「私が主役!」と、他人を見下すような態度に批判殺…
  • 6
    トランプ、ウクライナ支援継続で「戦況逆転」の可能…
  • 7
    「たったの10分間でもいい」ランニングをムリなく継続…
  • 8
    「スニーカー時代」にハイヒールを擁護するのは「オ…
  • 9
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 10
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 3
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達した...ここまで来るのに40年以上の歳月を要した
  • 4
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 7
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 8
    【クイズ】アメリカにとって最大の貿易相手はどこの…
  • 9
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 10
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 4
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 5
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 8
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 9
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 10
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中