米朝「物別れ」を中国はどう見ているか? ──カギは「ボルトン」と「コーエン」
Q:なるほど。ではなぜトランプは「北が制裁の全面解除を求めてきたから」と言ったと思いますか?
A:それは簡単な話だ。タカ派のボルトンは、ハノイの米朝首脳会談出席者の名簿には名前がなかった。中国政府はそのことを確認している。しかし急遽、出席している。それは米議会がコーエンの公聴会を、米朝首脳会談の一日目にぶつけてきたせいだろう。ここでトランプが金正恩に妥協したら、今度はトランプのアメリカ国内における立場がなくなる。だから金正恩のせいにして、「自分はテーブルを蹴って席を立った」という勇ましいイメージを作りかったに決まっている。
Q:その見解は私と一致しています。では、今回のトランプの行動は、今後の中国に何か影響をもたらしますか?
A:いや、中国に対しては、いかなる影響も及ぼさない。ただ金正恩に対しては、今までよりも一層、習近平を頼りにするという影響はもたらすだろう。その意味で、果たしてアメリカにとって有利になったのか否かは、考えてみなければならない。
Q:たとえば、どのようなことが想定できますか?
A:ん――、それはかなり厄介な質問だ。これはあくまでも個人的見解だが、たとえば、トランプはアメリカ国内で、自分はこれまでの大統領ができなかった北朝鮮問題を解決するという歴史的偉業を成し遂げた偉大なる人物だと自慢したかったはずだ。だからこそ、安倍(首相)にノーベル平和賞の候補者にノミネートするよう、頼んだりしている。しかし、今回の決裂により、結局は、これまでの大統領と大差ない闇に足を踏み入れてしまったことになる。ここから抜け出すのは並大抵のことではない。ボルトンは、果たしてトランプのためになることをやったのか否か。コーエンによる暴露があっても、むしろ北朝鮮問題を解決する道を選んだ方が賢明だったのではないかとも思う。なぜなら、もし北朝鮮問題を解決したならば、それは本当に歴史的な偉業となり、長い目で見ればトランプの栄誉になったはずだ。習近平もトランプに一目を置くことになっただろう。トランプはコーエン問題に怯え、土壇場でボルトン路線に引き込まれてしまった。チャンスを逃したのは金正恩ではなく、トランプだったかもしれない。
元高官が取材の最後に残した「もっとも、習近平は、今もまだ、完全には金正恩のことを信じているわけではないが......」という言葉が印象的だった。北朝鮮非核化の闇はさらに深まるばかりだ。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。