最新記事

アメリカ

ISIS・アルカイダの問題「むしろ悪化」 テロ首謀者殺害に喜べない理由

Dangerous Liaisons

2019年1月28日(月)11時25分
ジェフ・スタイン

バダウィ(写真)が殺害されたニュースは、対テロ戦争におけるアメリカの苦境をあぶり出した PHOTO ILLUSTRATION BY GLUEKIT; SOURCE IMAGE COURTESY OF FBI

<2000年の駆逐艦「コール」事件の首謀者バダウィを米軍が空爆で殺害したが、今の中東にはアメリカの「友人」があまりに少ない>

元日のニュースとしては、かなり衝撃的だった。アメリカが長いこと行方を追っていたジャマル・アル・バダウィが、イエメンで米軍の空爆により死亡したという。

ドナルド・トランプ米大統領は1月6日、歓喜のツイートをした。「われらが偉大な軍隊は、駆逐艦コールへの卑劣な攻撃の犠牲となった英雄たちのために公正な裁きを下した」。バダウィは2000年10月、「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」が関与したとされる米イージス駆逐艦コールへの自爆テロ攻撃の首謀者の1人と言われる。

だが国防総省は慎重で、事実確認に1週間近くをかけた。これまで大物テロリストが死亡したと発表した後に、当人が公の場に現れたことがあったためかもしれない。しかし今回は数日後にAQAPのほうから、バダウィが米軍の空爆で「殉教」したとの発表があった。

死者17人、負傷者39人を出した自爆テロの首謀者に復讐できたことは確かだ。だが、この件は国防総省とCIA、FBIにとって、ほろ苦い勝利となった。

バダウィは2003年と2006年にイエメンの刑務所から脱獄。2007年にはテロ活動に二度と関与しないことを条件に釈放されていた。

「私も長年、バダウィの行方を追ってきた」と、元FBI捜査官のアリ・スーファンは言う。彼は2001年、拷問を使わずに巧みな話術でバダウィから自白を引き出した。バダウィが脱走したり釈放されたりするたびに「捜索と逮捕を繰り返す羽目になった」が、「これでもう脱獄できなくなった」と言う。

テロ事件捜査に携わった元当局者たちは、時間は要したもののバダウィ殺害は勝利には違いないと言う。「報道されなくなって久しい犯人を捕らえることには意味がある」と、オバマ前政権で国務省のテロ対策に携わったダニエル・ベンジャミンは言う。「忘れていないというメッセージになるからだ」

だが容疑者の殺害に時間を要したことで、アメリカが国外で行うテロ対策が難しくなっている現実が浮き彫りになった。最も問題を抱える地域でのアメリカの「友人」は、9.11同時多発テロ当時よりも減っている。

「イエメンなどの状況が悪化しているのは間違いない」と、レオン・パネッタ元米国防長官は本誌に語った。「効果的なテロ対策には地元当局との良好な関係が欠かせない。だが今は、行き当たりばったりだ」

米軍には最も危険な場所

バダウィを長いこと捕らえられなかったことから分かるのは、「アルカイダ指導者たちの追跡が、イエメンだけでなく、パキスタンやシリア、アフリカの北部・東部でも難しくなっている」という現実だと、元FBI特別捜査官のマーティン・リアドンは言う。「アルカイダの活動が最も活発なイエメンやパキスタン、シリアなどでは、無法地帯が広範囲にわたって彼らの支配下に置かれている」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ルペン氏に有罪判決、被選挙権停止で次期大統領選出馬

ビジネス

中国人民銀、アウトライトリバースレポで3月に800

ビジネス

独2月小売売上は予想超えも輸入価格が大幅上昇、消費

ビジネス

日産とルノー、株式の持ち合い義務10%に引き下げ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中