地球温暖化が生む危険な「雑種フグ」急増 問われる食の安全管理
12月11日、夜明け前の暗闇に包まれた午前3時10分、天井からの投光に照らされた市場の一角にメリハリのある声が響いた。写真は下関市の研究所で11月12日、雑種フグを調べる水産研究・教育機構水産大学校の高橋洋准教授(2018年 ロイター/Mari Saito)
夜明け前の暗闇に包まれた午前3時10分、天井からの投光に照らされた市場の一角にメリハリのある声が響いた。「えか、えか、えか」。黒い筒状の布袋で手を隠した競り人が進み出ると、周囲の人々がひとりひとり袋の中に手を入れ、値決めのやり取りをする。
「1万3000!」。競り人が落札を宣言した。
冬の味覚、フグ取引の拠点として有名な山口県下関市の南風泊市場で続く「袋競り」の風景だ。まだ人々が着物姿で暮らし、長い雨具の袖で手を隠して競りをしていた昔の慣行が、その起源とも言われる。
高級魚フグをめぐる独特な世界は、袋競りだけではない。数時間で人を殺すほどの毒をもつ魚をいかに安全な食材として提供するか。都道府県知事による調理師免許を持ち、大量の水揚げの隅々まで目を光らせる専門業者や料理人たちも、フグ文化を支える重要な存在だ。
世界最速ペースの温暖化
しかし、フグ毒を知り尽くしているはずの「目利き」たちにとって、いま予想もしなかった事態が広がっている。これまでにない海水温の上昇による雑種フグの繁殖だ。
日本列島をとりまく海域、とりわけ日本海では世界で最も早いペースの温暖化現象が観測されることもあり、その結果、種類不明のフグがひんぱんに網にかかるようになってきた。冷たい水を求めてフグの群れが北方に向かうようになり、従来ではあまりなかった交雑が広がっているからだ。
雑種フグが従来種に比べて高い毒性を持つわけではない。しかし、フグは種類によって毒の危険部位が異なるため、それに応じた処理が必要だ。
雑種の場合、親魚の種類が見極めにくく、危険部位がわかりにくいこともある。毒性を除去しきれなければ、食用のリスクが高まる懸念もあるため、政府は種類不明のフグの販売と流通を禁止。この結果、フグ漁師や卸業者は大量の水揚げを廃棄せざるを得ない状況に追い込まれている。
下関市の水産加工会社、蟹屋の伊東尚登社長は、こうした見方に異を唱える一人だ。同社長によると、雑種であっても、きちんと判別され、調理が万全なら安全に食べることができる、という。
「とはいえ、絶対ルールは守らんといけん」。同社長は政府の措置に従う重要性を強調する。「もし何か問題があったら、大変なことになる」。