最新記事

インドネシア

大規模地震に襲われたロンボク島に新たな危機 復旧進まぬまま雨期到来でマラリア流行の兆し

2018年9月20日(木)21時32分
大塚智彦(PanAsiaNews)

雨期で感染症が拡大の懸念

7月29日の地震発生直後に最も被害の大きかったロンボク島北部に自力で入った日本人によると、余震が激しく道路両側には倒壊した民家や商店から上がる粉塵で視界がほとんどない状態だったという。そして急ごしらえの避難所で偶然会った現地在住の日本人女性はティッシュ、飲み水などの生活品、飲料が不足して困っていると訴えたという。

ロンボク島での相次ぐ地震は西隣のバリ島にも被害をもたらし、人的被害はほとんどなかったものの建物にひびが入ったり、天井が落ちたり外壁が崩れたりした。

バリ島は2017年11月以来、東部にあるアグン山(3014メートル)が噴火、一時ングラライ国際空港が閉鎖されるなど、観光業が大きな影響を受けた。

2018年の7月2日にもアグン山は再び噴火して溶岩が流出し、火口の半径4キロ以内が避難区域に指定された。ただ、空港がある地区までは直線距離で約60キロ離れており、現在では観光にほとんど影響がでていないという。

10月からの雨期で感染拡大の懸念

インドネシアを代表する観光地であるバリ島が火山噴火、ロンボク島が地震と相次いで自然災害に見舞われた。そこへ今回のマラリア感染の拡大という新たな事態が発生したことで特にロンボク島の観光産業は大きな打撃を受けており、アリフ・ヤフヤ観光相はロンボク島の観光客は少なくとも10万人減少するとの見通しを示し、観光客が以前のように回復するまでに半年かかるとの予測を明らかにしている。

ロンボク島のあるインドネシアは例年10月から約半年間の雨期を迎える。雨期には雨水などによる水溜りで蚊が大量に発生、繁殖することが多く、ハマダラ蚊によるマラリア感染の可能性も高くなる。

また雨期にはいろいろな種類の蚊が増えるため、同じく蚊を媒介とするデング熱も流行する傾向があることから、今後さらに警戒が必要となる。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、欧州に5月2日の協議提案と外交筋 核問題で

ビジネス

米財務省、国債発行計画据え置き見通し ガイダンス変

ワールド

米政権、不法移民政策の成果アピール 聖域都市照準に

ワールド

カナダ総選挙、自由党が政権維持へ 少数与党と報道も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 9
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 10
    【クイズ】米俳優が激白した、バットマンを演じる上…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 8
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中