最新記事

スポーツ

本田に野茂にネイマール......「ゲームチェンジャー」は批判を恐れない

IN PRAISE OF THE GAME-CHANGERS

2018年9月19日(水)17時00分
ピーター・タスカ(経済評論家)

ファウル欲しさから大げさに痛がることで知られるネイマール DAVID RAMOS-FIFA/GETTY IMAGES

<ゲームのルールまで変えてしまうような偉大な先駆者に、常識的な謙虚さを望むこと自体が間違い>

来年、ラグビーのワールドカップ(W杯)が日本で開催される。11月2日に横浜国際総合競技場で行われる決勝に勝ったチームは、ウェッブ・エリス・カップを高く掲げて歓喜に浸る。

でも、ちょっと待ってほしい。優勝トロフィーに名前を残すウィリアム・ウェッブ・エリスとは、一体誰なのか。

約200年前、ウェッブ・エリスはイングランドの名門ラグビー校の生徒だった。後に牧師になったが、同級生によると、学生時代にはクリケットでもフットボールでも「ずるをする」ことで有名だった。いま彼の名がトロフィーに刻まれているのも、ある驚くべき反則行為が理由だ。

ラグビー校に残る銘板には、彼についてこう記されている。「当時のフットボールの規則を無視し、初めてボールを抱えて走った。これがラグビー競技の生まれる発端となった」

あなたがウェッブ・エリスのチームと対戦していたら、ボールを抱えてゴールへ走る彼を見て、どう思うだろう。なんて勇敢で創造性にあふれた男だと思うだろうか。そんなはずはない。だがラグビー誕生をめぐる物語では、彼はスポーツ界のスティーブ・ジョブズのような人物。すなわち、あらゆる意味で「ゲームチェンジャー」なのだ。

先見の明のあるスポーツ選手には、さまざまなタイプがいる。彼らに共通しているのは、リスクを恐れないことと、批判にさらされがちなことだ。

1995年、日本のプロ野球選手で初めて米メジャーリーグのスターとなった野茂英雄もそうだった。彼が切り開いた道を、イチローや松井秀喜、大谷翔平などがたどることになった。

野茂が所属チームの近鉄バファローズと日本球界に盾突いたとき、そんな前例はなかった。彼は「任意引退」という抜け穴を使ってアメリカに渡るという手段に出た。メディアは彼に冷たく、裏切り者と非難する声もあった。

野茂は自分の才能に賭け、そして勝った。日本野球についての著書が多い作家ロバート・ホワイティングの言葉を借りれば、野茂はその後わずか数年で「日本人初の国際的なスポーツスター」になった。

スポーツヒーローも普通の人間であってほしいと願う人もいるだろう。だが、彼らは私たちとは違う。技術だけではない。自信、ひたむきさ、プレッシャーに負けない能力、全てが違う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中