アメフトの元スター選手を広告に起用したナイキ、人権と愛国の落とし穴にはまる
Nike Factory Workers Still Work Long Days for Low Wages
労働者支援団体はナイキが低賃金、長時間労働、劣悪な環境を強いていると反発 Crack Palinggi-REUTERS
<責任ある企業の模範例だったナイキが、まだ「搾取工場」をやっていたことがばれた上、件のスター選手を嫌う愛国的消費者がナイキ製品を燃やしはじめた>
アメリカン・フットボールの試合前の国歌斉唱で立たずにひざまずき、警官による黒人への暴力などの人種差別に抗議した元スター選手のコリン・キャパニック選手が、スポーツブランド、ナイキのスローガン「Just Do It」の30周年記念キャンペーンの広告に起用され、世界中の注目を集めている。
2016年には人権活動家としての戦いが評価されてタイム誌の「今年の人」特集の表紙にも選ばれたキャパニックだが、ナイキの広告を引き受けたのは失敗だったようだ。
キャパニックのような政治的なセレブリティを起用することには腰が引ける企業が多いなか、ナイキの勇気を称賛する声が多い。しかしその一方、少なからぬ人権活動家やネットユーザーは、ナイキはいまだに海外工場で労働者を低賃金で長時間働かせ、労働環境も劣悪だと反発しているからだ。
「活動家も時に間違いを犯す。キャパニックは、労働者を搾取し労働組合を潰すナイキに協力する間違いを犯した」と、ジャーナリストで政治活動家のローザ・クレメンテは今週ニューヨーク・タイムズの取材に語った。「ナイキはただの資本主義企業ではない。ハイパー資本主義企業だ」
キャパニックが出演するナイキの広告では、「何かを信じろ。例えすべてを犠牲にするとしても」というメッセージが流れる。ソーシャルメディアではそのパロディ動画が拡散しているが、その中にはキャパニックの顔がナイキの工場で働く若い女性の姿に変わり、画面下のスローガンが「Just Do It, for $0.23 per hour.(時給23セントで働け)」に変わっるものもある。
Believe in something, even if it means sacrificing everything. #JustDoIt pic.twitter.com/SRWkMIDdaO
— Colin Kaepernick (@Kaepernick7) 2018年9月3日
キャパニックが出演したナイキの「Just Do It」30周年の広告(上はキャパニックのツイッターから)
ナイキは更正したはずでは?
時給23セントの実態は本当にあるのか、海外の工場労働者の平均賃金はいくらなのか、ナイキに問い合わせたが、返答はなかった。
ナイキは「更正した」と一般には考えられていた。1997年、ベトナムなど東南アジアにおける児童労働、低賃金労働、強制労働といった「奴隷搾取工場」の実態がNGOに暴露されて世界中から批判を受け、ブランドイメージも台無しになった。それ以降、海外工場の労働環境の改善に努め、CSR(企業の社会的責任)の教科書的な成功例として扱われてきた。
世界中の衣料製造労働者の権利を守る団体「クリーン・クローズ・キャンペーン(CCC)」は6月の報告書の中で、労働者が受け取る賃金がナイキの収益に占める割合は、90年代より現在の方が低いと指摘している。
上のCMのパロディ版「Just Do Whatever」
「ナイキとアディダスのスポーツシューズの製造コストのうち、労働者の給料が占める割合は、90年代前半より30%も減っている(ナイキのスポーツシューズでは、1995年に4%だった割合が2017年には2.5%に低下)」と、報告書は述べている。CCCによると、ナイキは中国での賃金が上昇したために製造工程のほとんどをインドネシア、カンボジア、ベトナムに移している。