最新記事

ナイキ

アメフトの元スター選手を広告に起用したナイキ、人権と愛国の落とし穴にはまる

Nike Factory Workers Still Work Long Days for Low Wages

2018年9月7日(金)16時30分
ジェイソン・レモン

労働者支援団体はナイキが低賃金、長時間労働、劣悪な環境を強いていると反発 Crack Palinggi-REUTERS

<責任ある企業の模範例だったナイキが、まだ「搾取工場」をやっていたことがばれた上、件のスター選手を嫌う愛国的消費者がナイキ製品を燃やしはじめた>

アメリカン・フットボールの試合前の国歌斉唱で立たずにひざまずき、警官による黒人への暴力などの人種差別に抗議した元スター選手のコリン・キャパニック選手が、スポーツブランド、ナイキのスローガン「Just Do It」の30周年記念キャンペーンの広告に起用され、世界中の注目を集めている。

2016年には人権活動家としての戦いが評価されてタイム誌の「今年の人」特集の表紙にも選ばれたキャパニックだが、ナイキの広告を引き受けたのは失敗だったようだ。

キャパニックのような政治的なセレブリティを起用することには腰が引ける企業が多いなか、ナイキの勇気を称賛する声が多い。しかしその一方、少なからぬ人権活動家やネットユーザーは、ナイキはいまだに海外工場で労働者を低賃金で長時間働かせ、労働環境も劣悪だと反発しているからだ。

「活動家も時に間違いを犯す。キャパニックは、労働者を搾取し労働組合を潰すナイキに協力する間違いを犯した」と、ジャーナリストで政治活動家のローザ・クレメンテは今週ニューヨーク・タイムズの取材に語った。「ナイキはただの資本主義企業ではない。ハイパー資本主義企業だ」

キャパニックが出演するナイキの広告では、「何かを信じろ。例えすべてを犠牲にするとしても」というメッセージが流れる。ソーシャルメディアではそのパロディ動画が拡散しているが、その中にはキャパニックの顔がナイキの工場で働く若い女性の姿に変わり、画面下のスローガンが「Just Do It, for $0.23 per hour.(時給23セントで働け)」に変わっるものもある。



キャパニックが出演したナイキの「Just Do It」30周年の広告(上はキャパニックのツイッターから)


ナイキは更正したはずでは?

時給23セントの実態は本当にあるのか、海外の工場労働者の平均賃金はいくらなのか、ナイキに問い合わせたが、返答はなかった。

ナイキは「更正した」と一般には考えられていた。1997年、ベトナムなど東南アジアにおける児童労働、低賃金労働、強制労働といった「奴隷搾取工場」の実態がNGOに暴露されて世界中から批判を受け、ブランドイメージも台無しになった。それ以降、海外工場の労働環境の改善に努め、CSR(企業の社会的責任)の教科書的な成功例として扱われてきた。

世界中の衣料製造労働者の権利を守る団体「クリーン・クローズ・キャンペーン(CCC)」は6月の報告書の中で、労働者が受け取る賃金がナイキの収益に占める割合は、90年代より現在の方が低いと指摘している。

上のCMのパロディ版「Just Do Whatever」


「ナイキとアディダスのスポーツシューズの製造コストのうち、労働者の給料が占める割合は、90年代前半より30%も減っている(ナイキのスポーツシューズでは、1995年に4%だった割合が2017年には2.5%に低下)」と、報告書は述べている。CCCによると、ナイキは中国での賃金が上昇したために製造工程のほとんどをインドネシア、カンボジア、ベトナムに移している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中