最新記事

ナイキ

アメフトの元スター選手を広告に起用したナイキ、人権と愛国の落とし穴にはまる

Nike Factory Workers Still Work Long Days for Low Wages

2018年9月7日(金)16時30分
ジェイソン・レモン

ナイキ・ボイコット動画。現役時代のキャパニックがひざまずく姿も


これらの3カ国では、衣料製造労働者の平均賃金はいわゆる「生活賃金(一定レベルの生活を維持できる時間給)」よりも45%~65%低いという。

ロイター通信の取材に対してナイキは、すべての工場が最低でもその国の法律で規定された「最低賃金」か、または法律で規定された残業手当などすべての手当を含む「現行賃金」を支払っていると答えた。

ナイキの広報担当者は、「弊社は体系的な待遇改善のため、各国政府、製造業者、NGO、労働組合、そして労働者との対話に長年、時間を割いてきている」と語っている。

しかし労働者支援団体「倫理的取引イニシアティブ」のマーティン・バトルは、ナイキの工場は労働者を「貧困のサイクルに陥れて」いる可能性がある、と主張する。

2017年6月の英ガーディアン紙の報道によれば、ナイキ、プーマ、アシックス、VFC(米アパレルメーカー)の4社の製品を製造するカンボジアの4つの工場を合わせて、過去1年間に500人以上の労働者が職場で体調を崩して病院に運ばれたという。4社ともこうした事態が発生したことを認めている。倒れた労働者のほとんどが、高温と長時間労働が原因の体調不良だった。

キャパニックを嫌う者も

労働組合の代表や労働者は、多くの労働者が1日10時間以上、週に6日間働き、工場内はときには35度前後の高温になることもあると語っている。4社のいずれも月給400ドルに満たないカンボジアの「生活賃金」を支払っていなかった。

それでも、ナイキをはじめ各スポーツウェアメーカーの労働条件は、世界的なアパレル企業の多くと同程度。衣料産業が、アジア全域で経済成長に多大な貢献をしていることは事実だ。

「衣料産業はアジアで何百万という雇用を地元住民に提供している。アジア各国の急激な経済成長を支えている。しかし急激な成長には対価が付きもので、それを支払わされているのが工場労働者だ」と、アジア地域の労働者の賃金引き上げを推進する団体「アジア・フロアー・ウェイジ」はウェブサイトで解説している。

「すべての衣料労働者は、住居や食品、教育、医療といった自分と家族の基本的なニーズを満たすために、賃金の引き上げが必要だ。しかしある国の労働者が、賃金や労働環境を改善しようと動くと、企業側は賃金や労働環境が悪い別の国に工場を移してしまう」と、問題点を指摘している。

一部の消費者の間では今、ナイキのシューズを燃やしたり、ナイキの靴下を引き裂いたりするナイキ不買運動が起こっているが、皮肉にもそれは搾取工場のためではない。国歌斉唱で立たずにひざまずいていたキャパニックがナイキの「顔」になることに抗議しているのだ。彼らに言わせれば、キャパニックはアメリカの国歌にも国旗にも敬意を払わない裏切り者なのだ。ナイキとキャパニックは、どちらにとっても思ったほどいい組み合わせではなかったようだ。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア政府系ファンド責任者、今週訪米へ 米特使と会

ビジネス

欧州株ETFへの資金流入、過去最高 不透明感強まる

ワールド

カナダ製造業PMI、3月は1年3カ月ぶり低水準 貿

ワールド

米、LNG輸出巡る規則撤廃 前政権の「認可後7年以
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中