最新記事

暗殺事件

金正男暗殺事件の実行犯女性アイシャ被告らの裁判は審理継続に マレーシア裁判所

2018年8月16日(木)14時50分
大塚智彦(PanAsiaNews)

裁判所に出廷する実行犯女性のひとりシティ・アイシャ被告 Lai Seng Sin - REUTERS

<昨年2月、世界を大きく揺るがした金正男暗殺事件。事件に関与したとされる北朝鮮の関係者は帰国し、実行犯女性2人だけが司法の審判を受けたが──>

マレーシア・クアラルンプール近郊セランゴールの高等裁判所は8月16日、2017年2月13日に北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男氏を猛毒のVXガスで殺害し殺人罪に問われていたインドネシア国籍のシティ・アイシャ被告(26)とベトナム国籍のドアン・ティ・フォン被告(29)に対し、審理をさらに継続することを決定した。

裁判ではこれまでに検察側の証人約30人が証言に立ち、検察側の主張に沿った被告らの容疑を裏付ける証言を行ってきた。

その上で同日の公判で裁判長は「これまでの検察側の証人尋問で、殺人罪を立証する十分な証拠がある」との見解を示し、今後さらに弁護側の証人から証言を得る必要があるとしてさらに審理を継続することを判断した。

アイシャ被告の弁護士は同日の公判を前に「無罪で釈放される可能性が高い」との見方を示し、2被告の無罪、即時釈放、帰国への期待が高まっていたが、審理継続でその期待は裏切られた。

2被告は一貫して無罪を主張

事件は2017年2月13日にクアラルンプール国際空港ロビーの人混みの中で両被告が役割分担して、マカオに出国するために同空港を訪れた金正男氏の背後から近づき、顔面にVXガスを塗りつけ、殺害した。犯行の様子は空港内の監視カメラなどに鮮明に捕らえられており、2被告は間もなく逮捕された。

両被告は逮捕直後から、「日本のテレビのドッキリ番組の収録だと思っていた」「顔にすりつけた液体が猛毒とは知らなかった」「殺害する意図は全くなかった」「複数の男性の指示に従っただけだ」などと一貫して無罪を主張していた。

両被告はマレーシアでは最高刑で死刑もありうる殺人罪に問われ、重要な事案ということで裁判は高等裁判所に移管されて公判が続いていた。

事件には2被告以外に北朝鮮国籍の男性、在マレーシア北朝鮮大使館員など8人の関与が疑われた。マレーシア警察は北朝鮮人1人を容疑者として逮捕。また北朝鮮国籍の容疑者複数が北朝鮮大使館内に「籠城」して膠着状態となり、当時のナジブ政権が「北朝鮮との国交断絶も辞さない」との強硬姿勢を示し、両国の外交問題に発展した。

しかし逮捕した容疑者のうち、北朝鮮国籍の男は証拠不十分で釈放され、大使館内の重要参考人も政治的判断で全員が出国し北朝鮮に帰国。結局同事件で逮捕、起訴された実行犯の女性2人だけで裁判が進むという異例の展開となった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中