独メルケル首相、連立危機で見せた求心力 任期末まで続投か
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7月3日、ドイツのメルケル首相(写真)は、難民政策で対立する連立相手のキリスト教社会同盟との間で、自身の面目を保つ形で妥協的な合意を成立させた。ベルリンで2日撮影(2018年 ロイター/Hannibal Hanschke)
ドイツのメルケル首相は、難民政策で対立する連立相手のキリスト教社会同盟(CSU)との間で、自身の面目を保つ形で妥協的な合意を成立させた。こうしたプロセスでメルケル氏の立場は弱まったかもしれない。ただ同氏が率いるキリスト教民主同盟(CDU)にとって、「首相の替えはきかない」ことが、いみじくも証明された。
連立政権内の基本的な緊張関係は解消されていない。また特に今回の連立政権樹立における政党間協定には各政党が2年で成果を点検するという事項が盛り込まれたことから、これまで多くの専門家はメルケル氏が任期を全うできないと予想してきた。
それでもメルケル氏に代わってCDUのかじを取れる有力な人材が見当たらず、多くの国民が極右の台頭を恐れている事情もあり、同氏は首相の座を粘り強く守り続けている。うまくいけば、次回の総選挙が予定される2021年まで政権を維持するだろう。
ケルン大学のトーマス・イエーガー教授(政治学)は、難民政策を巡る対立で「メルケル氏と(CSU党首の)ゼーホーファー内相の双方が傷を負った」と指摘しつつも、メルケル氏は首相であり続けるという面で大いに成功し、実際に生き残っていると評価した。
メルケル氏とゼーホーファー氏は2日の会談で、難民審査施設をオーストリアとの国境に設置し、メルケル氏の国境開放政策によって2014年以降160万人強に上っている難民受け入れの負担軽減を図ることで合意した。
この措置が実現するには、もう1つの連立相手である社会民主党(SPD)とオーストリアの同意が必要で、ドイツのメディアからは酷評されている。
くすぶる火種
もっともメルケル氏が抱える大きな悩みの1つである、CSUとの溝は残されたままだ。CSUが難民問題で強硬姿勢を貫く背景には、10月に地元バイエルン州の議会選挙を控え、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の厳しい攻勢にさらされているという事情がある。
とりわけメルケル氏にとって、度々難民・移民政策を巡って意見が衝突してきたゼーホーファー内相と今後も一緒に仕事をしていかなければならない状況は厄介だろう。
一方で連立政権からCSUが離脱すれば、メルケル氏の与党は議会で過半数を維持できなくなる。
連立政権内の対立についてコメルツ銀行のチーフエコノミスト、イエルク・クラマー氏は、相互信頼が大きく損なわれ、今後の立法作業における協力が難しくなるとともに、少なくとも政権の安定性にとって潜在的な脅威を生み出していると分析する。
メルケル氏とゼーホーファー氏は2日の会談後も別々に会見。安心感をのぞかせたゼーホーファー氏と、淡々としたままのメルケル氏の表情も対照的だった。
専門家の間では、この先例えばCSUが反対するユーロ圏改革計画などで再び論争が起きるのではないかと予想されている。
とはいえCSUとの対立が、かえってCDU党員をメルケル氏支持に駆り立てた面がある。あるCDUの幹部議員はロイターに「われわれの首相が小さな連立相手に叩かれ続けるのを許すわけにはいかない」と明言した。