最新記事

ベンチャー

The Era of Dataism──データ資本主義の時代

2018年6月25日(月)18時10分
蛯原 健(リブライトパートナーズ代表)

JuSun-iStock

<インターネットが成熟産業化してしまった今日、世界に星の数ほど生まれているスタートアップはどこに向かっているのだろうか>

これが今、我々が住んでいる世界地図である。世界各国のスタートアップ資金調達額の分布図だ。

ebihara1.jpg

テクノロジーとイノベーションを両輪に発展するこの世界では、中国が米国に比肩し二超大国となり、そこから大きく離れてインドと欧州連合が次いでいる。

そのような世界地図の裏で、実際のところいま何が起きているのかだろうか。この数字は何によってもたらされているのだろうか。これからそれを一つ一つ、テーマ毎に紐解いてみよう。

データ資本主義の時代

我々が生きる2018年という時代はデータが全てを支配する時代である。「そういう時代が来る」という悠長な話ではない。「すでに来た」、過去形である。それを簡単に検証してみよう。

この男の名を知っているだろうか。


ebihara_a.jpg

The Hidden Life of Trump Megadonor Robert Mercer/Bloomberg-Youtube より


知らないならば覚えておいたほうが良い。その名はロバート・マーサー。世界最大級の1兆円を超える運用残高のクオンツファンド「メダリオン」を運用する会社、ルネサンステクノロジーのCEOである。

ルネサンステクノロジーとは、ジェームス・シモンズという著名な数学者が創業した。世界的な数学賞を受賞する一級の科学者であったシモンズは、株式投資の法則性を数学的アルゴリズムによって解き明かし、のみならず瞬速で自動売買するシステムを世界で初めて証券投資に持ち込んだ。そのシモンズが、当時IBMで機械学習専門のサイエンティストであった人物をルネサンステクノロジーの社長として引っ張ってきた、その人物こそ、このロバート・マーサーである。

AI ミーツ ファイナンス、AIをファイナンスの世界に持ち込み、そして彼らは世界最大級の富豪となった。

しかし問題はここからである。ワシントンでは誰でも知っている事実、このロバート・マーサーは共和党の、そしてドナルド・トランプの最大の献金者なのである。のみならず、英国のEU離脱においても離脱側政治グループに最大の献金をしていた事でも知られている。

更にである。マーサーはFacebookを大スキャンダルに巻き込んだ選挙コンサルティング会社、ケンブリッジ・アナリティカの主要な資金源であることもまた周知の事実である。

ケンブリッジ・アナリティカは先の大統領選挙において民主党のヒラリー・クリントンに対する大ネガティブ・キャンペーンを張った事で知られている。不正な手段を使って大量の個人情報を収集し、そこに対して恐ろしいまでに精緻なデータアナリティクスと、心理学的アプローチを駆使して、十万通りを超えるFacebook広告を手を変え品を変え流し込んだ。その結果、両陣営がゼロコンマ数%の僅差で戦っていた選挙戦でトランプに勝利をもたらしたというわけだ。

The Hidden Life of Trump Megadonor Robert Mercer/Bloomberg


AI ミーツ ポリティクス、ファイナンスの世界にAIを持ち込み最強の富豪となったマーサーは、今度は政治の世界にAIを持ち込んだ。結果、ブレグジットを実現し、米国にトランプというモンスターを誕生させた。

これをディストピアと言わずして何と言おう。更にこれにロシアが関与しているとなったら、なんと世紀末的だろう。この所謂ロシア・ゲートは未だ調査が続いていて白黒付いていないが。

データによって富も、民衆の心や行動すらも操られる世界。それが今、我々が生きている2018年という世界である。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 10
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中