普通の国になりたい北朝鮮 国際社会が今やるべきことは?
平壌の錦繍山太陽宮殿に眠る2人はどんな思いで見ているだろうか(写真は05年) YURI MALTSEV-REUTERS
<トランプ、金正恩、日本、中国、北朝鮮国民――世紀の米朝会談で誰が得をしたのか、何が変わるのか。会談結果から読み解く今後の展望を検証した本誌6/26号特集「米朝会談の勝者」より。非核化より大事な北朝鮮の「普通の国」への道>
鳴り物入りで始まったわりに、あっけなく(実質的には午前中だけで)終わった史上初の米朝首脳会談。どうやら金正恩(キム・ジョンウン)が「朝鮮半島の非核化」を約束したらしいが、そんな約束は、その気になればいつでも覆せる。もちろん非核化は進めてほしいが、その際に必要なのは、北朝鮮がその約束を守りたくなる環境を整えること。言い換えれば、核兵器に頼らなくても生きていける「普通の国」へと導くことだ。
そもそも、なぜ金は韓国や中国、そしてアメリカとの首脳会談に応じたのか。制裁強化が効いたのか。それとも「事実上の」核保有国となったことで自信をつけ、対等な立場で交渉に臨めると思ったのか。あるいは適当な約束で時間を稼ぎ、トランプ米大統領の退陣を待つ作戦か。
いずれにせよ、トランプも金も初顔合わせのシンガポール会談を「成功」と見せることにこだわり、そのことには成功した。しかし、この先は難しい。非核化の工程や検証方法に関する詰めの交渉は難航必至だ。もちろんアメリカはCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)の要求を引っ込めないだろう。対する北朝鮮は、CVIDと同時並行で現体制のCVIG(完全かつ検証可能で不可逆的な保証)を求めているという。
しかし今のままでは、仮に双方がCVIDとCVIGの約束を交わしても、むなしい合意文書が増えるだけに終わるだろう。なにしろ両国間の相互不信の根は深い。一朝一夕に解消できるものではない。しかもよく知られているとおり、金もトランプも平気で約束を破る。こんな状況で両者が目標を実現させることは困難だ。
それでも私たちは北朝鮮との交渉を続けるべきだ。なぜなら、外交的な交渉や交流を続けてこそ北朝鮮を国際社会に招き入れられるからだ。一連の首脳会談から見えてきたのは、普通の国になりたいという北朝鮮の願望だ。この数カ月で、金は中国の習近平(シー・チンピン)国家主席と2回、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領とも2回会い、トランプにも会った。高官レベルの会合も頻繁に開かれた。どの会談も、通常の「国家対国家」の枠組みで行われた。
南北首脳が並んでの共同宣言の発表、金の首脳会談を異例のスピードで報じた北朝鮮メディア、妻の李雪主(リ・ソルジュ)を「ファースト・レディー」と紹介した金......。どれも、先代・先々代の時代には考えられなかったことだ。