最新記事

米朝会談の勝者

普通の国になりたい北朝鮮 国際社会が今やるべきことは?

2018年6月20日(水)11時50分
ギウク・シン(スタンフォード大学アジア太平洋研究センター長)、ジョイス・リー(同センター研究員)

平壌の錦繍山太陽宮殿に眠る2人はどんな思いで見ているだろうか(写真は05年) YURI MALTSEV-REUTERS


180626cover-150.jpg<トランプ、金正恩、日本、中国、北朝鮮国民――世紀の米朝会談で誰が得をしたのか、何が変わるのか。会談結果から読み解く今後の展望を検証した本誌6/26号特集「米朝会談の勝者」より。非核化より大事な北朝鮮の「普通の国」への道>

鳴り物入りで始まったわりに、あっけなく(実質的には午前中だけで)終わった史上初の米朝首脳会談。どうやら金正恩(キム・ジョンウン)が「朝鮮半島の非核化」を約束したらしいが、そんな約束は、その気になればいつでも覆せる。もちろん非核化は進めてほしいが、その際に必要なのは、北朝鮮がその約束を守りたくなる環境を整えること。言い換えれば、核兵器に頼らなくても生きていける「普通の国」へと導くことだ。

そもそも、なぜ金は韓国や中国、そしてアメリカとの首脳会談に応じたのか。制裁強化が効いたのか。それとも「事実上の」核保有国となったことで自信をつけ、対等な立場で交渉に臨めると思ったのか。あるいは適当な約束で時間を稼ぎ、トランプ米大統領の退陣を待つ作戦か。

いずれにせよ、トランプも金も初顔合わせのシンガポール会談を「成功」と見せることにこだわり、そのことには成功した。しかし、この先は難しい。非核化の工程や検証方法に関する詰めの交渉は難航必至だ。もちろんアメリカはCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)の要求を引っ込めないだろう。対する北朝鮮は、CVIDと同時並行で現体制のCVIG(完全かつ検証可能で不可逆的な保証)を求めているという。

しかし今のままでは、仮に双方がCVIDとCVIGの約束を交わしても、むなしい合意文書が増えるだけに終わるだろう。なにしろ両国間の相互不信の根は深い。一朝一夕に解消できるものではない。しかもよく知られているとおり、金もトランプも平気で約束を破る。こんな状況で両者が目標を実現させることは困難だ。

それでも私たちは北朝鮮との交渉を続けるべきだ。なぜなら、外交的な交渉や交流を続けてこそ北朝鮮を国際社会に招き入れられるからだ。一連の首脳会談から見えてきたのは、普通の国になりたいという北朝鮮の願望だ。この数カ月で、金は中国の習近平(シー・チンピン)国家主席と2回、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領とも2回会い、トランプにも会った。高官レベルの会合も頻繁に開かれた。どの会談も、通常の「国家対国家」の枠組みで行われた。

南北首脳が並んでの共同宣言の発表、金の首脳会談を異例のスピードで報じた北朝鮮メディア、妻の李雪主(リ・ソルジュ)を「ファースト・レディー」と紹介した金......。どれも、先代・先々代の時代には考えられなかったことだ。

【参考記事】米朝会談「アメリカは高潔・聡明、敵はクレイジー」外交のツケ

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

株式・債券ファンド、いずれも約120億ドル流入=B

ワールド

中国、総合的な不動産対策発表 地方政府が住宅購入

ビジネス

アングル:米ダウ一時4万ドル台、3万ドルから3年半

ワールド

北朝鮮、東岸沖へ短距離ミサイルを複数発発射=韓国軍
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中