日本が「蚊帳の外」より懸念すべき、安保環境の大変動と「蚊帳の穴」
在韓米軍が撤退すれば日本の安保体制にも影響が CARL KING JR.-U.S. MARINE CORPS
<韓国と北朝鮮の緊張緩和ムードが高まっている。そんななか、日本は南北会談や米朝首脳会談で「蚊帳の外」にされたと嘆いているが、メンツや他人との違いばかりを気にし過ぎている場合ではない。統一朝鮮が日本の敵になるか味方になるかを検証した本誌5/22号特集「統一朝鮮 本当のリスク」より>
史上初となる米朝首脳会談は、6月12日にシンガポールで開催されることがトランプ政権により発表された。関心は非核化の行方に集まりがちだが、会談の結果、日本の安全保障はどのような影響を受けるのか。朝鮮半島情勢に詳しい新潟県立大学の浅羽祐樹教授に本誌・前川祐補が聞いた。
――米朝会談の見通しを。
ドナルド・トランプ米大統領は「オレが朝鮮半島を核無しにしたんだぞ!」とツイートしそうだ。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と会う以上、「成功」とするしかないからだ。だが、日本にとって重要なのは、それで日本の安保環境が向上するかどうかだ。RPGゲームでも、究極的な目的は魔王を倒すことではなく、世界に平和を取り戻すことにある。「仲間」内で旅の目的を擦り合わせしておかないと、喧伝される「饗宴」に目が奪われ、本末転倒になりかねない。
――アメリカがICBM(大陸間弾道ミサイル)の廃棄で北と手打ちした場合、日本と仲たがいしかねないと。
同盟国とはいえ100%、国益が一致するわけではない。そもそも地政学的に、日本(や在日米軍)に特有の課題がある。アメリカ本土とハワイやグアムに届くミサイルは全廃されたとしても、日本を射程に入れるスカッドやノドンが残ると大問題だ。
――非核化の見通しは。
米朝がCVID(完全〔complete〕かつ検証可能〔verifiable〕で、不可逆的〔irreversible〕な核廃棄〔dismantlement〕)で合意し実施できたとしても、設計図や技術、科学者は残る。核兵器、製造場、実験場は解体し、核物質を国外に供出させても、理論上はいつでも核開発を再開できる。査察についても、衛星だけでなく人的諜報も通じて決定的証拠をつかまない限り、自己申告で了とせざるを得ない。こうした問題では北朝鮮に限らず、情報の非対称性がボトルネックになる。
――必ずしも「恒久的(permanent)」にはならない非核化と、中距離ミサイルは保有する国家が日本の隣に居座るということになる。
非核化よりも平和体制への転換が先に進むのも問題だ。板門店宣言では今年中にも朝鮮戦争の終戦を宣言し、南北と米(中)だけで平和協定を締結するシナリオが示された。ここで日本は当事者になりようがないが、地域秩序の再編過程で「蚊帳の外」だとスカッドミサイルなどとの共存が「平和」とされかねない。しかもこれらのミサイルは連射が可能で、日本海の同じ地点に正確に着弾した。核弾頭も既に装着できる。日本にとっては、ICBMよりこちらのほうが差し迫った脅威だ。
にもかかわらず、手元にある「蚊帳」だと蚊が入り込む恐れがある。日本のミサイル防衛態勢はイージス艦のSM3(スタンダードミサイル3)とPAC3だが、全域が2段構えになっていないし、連射にも耐えられない。ICBMの問題が米朝間で解決し、早朝にJアラートでたたき起こされるような事態がなくなったとしても、日本の安保環境はそれだけでは好転しないことをどれだけ認識しているのか。
迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の導入決定は(ミサイル防衛の)「穴」を塞ぐ措置だが、時間がかかる。となると、しばらくはTHAAD(高高度防衛ミサイル)でしのぐのも一案だ。どうするかは議論して決めればいいが、まずは現状を冷徹に認識した上で、政策オプションをできるだけ出して、メリットとデメリットを比較衡量したい。