最新記事

統一朝鮮 本当のリスク

日本が「蚊帳の外」より懸念すべき、安保環境の大変動と「蚊帳の穴」

2018年5月17日(木)06時30分
前川祐補(本誌記者)

――在韓米軍は縮小する?

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の外交ブレーンだけでなくトランプ自身も何度もぶちまけているように、在韓米軍の縮小はどこかの段階で現実化するシナリオだ。そうなると当然、在日米軍の在り方や日米同盟への信頼にも影響を及ぼす。「自由陣営」の最前線が38度線から対馬海峡へ変わるかもしれない。

そもそも在韓米軍は半島有事のためだけに張り付いた部隊で、在日米軍と違ってグローバルな展開が予定されていない。それは陸軍中心の部隊の構成を見ても明らかだ。半島の緊張が緩和されれば規模は縮小されるのが「自然」とも言える。もちろん、すぐに米韓同盟自体が解消されるわけではないが、朝鮮半島全体をめぐって米中の間で角逐が強くなる。中国が韓国に対してTHAAD撤廃を要求するのは間違いない。

――米朝会談に対する日本の見方が近視眼的だと。

やれ日米が主導した「最大限の圧力」の成果だの、やれ「蚊帳の外」だのと自分のメンツや他人との違いばかりを気にし過ぎだ。死活的なのは、結果として日本の安保環境がどうなるかだ。非核化、ミサイル、拉致、平和体制への転換が互いにどう連動するのか、トータルで判断する姿勢が欠かせない。

拉致もスカッドやノドンへの対応も、他人任せにするのではなく自らも動くべきだ。米朝や南北だけうまくいくと日本にとっての優先課題が置き去りになる。何が起きても、政治家は日米の信頼関係は揺るぎないと言うかもしれないが、いろんなシナリオについて「頭の体操」をするべきだ。

――うがった見方をすれば、日本がこれまで以上に防衛力を強化する口実になると、南北朝鮮には映るのでは?

確かに、そうでなくても「軍国化する日本」と理解(喧伝)されてきた。それは過去の反省が不十分というよりは、この地域の将来に対する日本のビジョンが明確でないためだ。「インド太平洋戦略」は示されているが、朝鮮半島の位置付けはよく分からない。

――結果的に日本は国際秩序の変化に対応が遅れた?

戦後70年以上、日本は国際秩序に対して主体的に関与するという発想に欠けていた。そもそも国際秩序は所与のもので、その中でどううまく振る舞うかというのが日本外交の成功戦略だった。これは戦前、国際秩序に挑戦して失敗したという痛切な反省に基づく。その分戦後、アメリカが主導したリベラルな国際秩序に招き入れられると、そのまま受け入れ利益を享受した。トランプ政権がTPP(環太平洋経済連携協定)やパリ協定から離脱すると、日本こそがルールと規範の守護者であると自任するほどだ。

だが、秩序の在り方そのものが問われるなか、今は自らが主体的に関与し、新しい秩序を共につくっていく局面である。板門店宣言を見ると、南北朝鮮は自らが「歴史の主役」であるという気概に満ちあふれている。トランプも前例にはこだわらないタイプだし、中国も黄海から南シナ海、さらには太平洋に出ていこうとしている。

それぞれ形は異なるとはいえ、「現体制」に対する「挑戦者」志向が強い。日本だけが「戦後レジーム」の申し子で、再編期への対応に不得手だとすると、歴史の皮肉である。

※「統一朝鮮 本当のリスク」特集(2018年5月15日発売)はこちらからお買い求めいただけます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ関税、英ではインフレよりデフレ効果=グリー

ワールド

ロシア中銀、金利21%に据え置き 貿易摩擦によるイ

ビジネス

米、日本などと「代替」案協議 10%関税の削減・撤

ワールド

トランプ氏側近特使がプーチン氏と会談、ロシア「米ロ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 3
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 4
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 8
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中