米国との貿易戦争回避に腐心のドイツ 黒字達成はEU内紛呼ぶ両刃の剣
こうした立場の違いはEU諸国を分断し、トランプ大統領と交渉するEUの立場を弱めかねない。そうなれば、米国企業の競争力をグローバル規模で高めようとするトランプ氏の術中にはまることになる。
ドイツのアルトマイヤー経済相は2日、フランスと共通の立場を見出すことと、米国に対する提案を策定することは、「同じように難しい」と述べた。
これまでのところ、EUは「米国政府はEUを鉄鋼・アルミ関税の対象から恒久的に除外すべき」という立場をとっており、ドイツとフランスの立場の違いはその背後に隠されている。
だが、6月1日の期限が近づく中、EU各国の通商担当大臣は早急に互いの立場の違いを解消し、米政権との交渉に向けて、マルムストローム欧州委員(貿易担当)に明確な権限を与えなければならない。
自動車産業に危機感
ドイツの自動車メーカー各社は、「やられたらやり返す」方式で報復的な制裁関税がエスカレートすれば、次に打撃が及ぶのは自動車業界だと危惧しており、貿易戦争で被る影響を緩和しようと試みている。
BMWは米国で生産するオフロード車「X3」の中国向け輸出をひっそりと中止し、中国内で同モデルを生産できるよう、瀋陽の自社工場の設備を入れ替えた。このモデルは現在、南アフリカのロスリン工場でも生産されている。
だが、BMWのペーター・シュワルツェンバウアー取締役は、ある工場から別の工場に生産拠点を移すにはコストがかかり、その計画・実施に数カ月を要すため、長期的視点で進める必要があると語る。
「スパータンバーグ(米サウスカロライナ州)の工場やメキシコの工場のように、20─30年程度の視野に立った意志決定が必要だ」とシュワルツェンバウアー取締役は3月、ロイターに語った。
「(トランプ大統領の)ツイッター投稿のたびに戦略を変えなければならないとすれば、正気ではいられない」と彼は付け加えた。
欧州と米国の双方から自動車産業を巡る対立をあおる動きがみられた。
2017年1月、大統領就任直前のトランプ氏は、ニューヨーク市街で見られる高級車にメルセデス・ベンツが多いと不満を漏らし、米国に輸入される自動車には35%の国境税を課すと警告した。
これに対しドイツのガブリエル経済相(当時)は、「米国がもっといいクルマを作るべきだ」と応じた。
ガブリエル氏の発言は、自国から輸出される製品の品質の高さ、そして国際社会からの敬意と認知を再び獲得するに至った戦後の成功についてドイツ人が感じているプライドを反映している。