最新記事

保護主義

トランプの輸入関税導入は本当に「貿易戦争」を呼ぶか?

2018年3月7日(水)16時37分

3月5日、ジョージ・W・ブッシュ政権下の鉄鋼関税から、欧州連合(EU)と中国の繊維製品取引を巡る対立に至るまで、世界的な貿易戦争の勃発は恐れられてきた割には、実際にそうした事態になったことは一度もない。写真は2日、フロリダ州パームビーチに到着したトランプ米大統領(2018年 ロイター/Kevin Lamarque)

ジョージ・W・ブッシュ政権下の鉄鋼関税から、欧州連合(EU)と中国の繊維製品取引を巡る対立に至るまで、世界的な貿易戦争の勃発は恐れられてきた割には、実際にそうした事態になったことは一度もない。トランプ米大統領が打ち出した鉄鋼・アルミニウムに高い関税を課して輸入を制限しようという方針も、同じ道のりをたどる公算が大きい。

ブッシュ政権が導入した鉄鋼関税については、世界貿易機関(WTO)が2003年に協定違反と認定したため打ち切られた。また05年にEUが中国製ブラジャーの輸入抑制に乗り出して起きた紛争は、両者の緊急協議によって一件落着となった。エコノミストによると、今回も結局は貿易戦争にならないのではないかという。

トランプ氏は昨年1月に大統領に就任して以来、ずっと通商問題で強硬な発言を続けているが、その激しい口調から何か具体的なことが生じたわけではない。

例えば同氏は就任初日に環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を表明したものの、元来議会で承認される可能性はゼロだった。また北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉についてしばしばツイッターで離脱をほのめかしながら、今のところ具体的な動きはない。

残るのは今回の鉄鋼・アルミ、それ以前に承認した洗濯機、太陽電池モジュールに高関税を課す輸入制限措置だ。ただこれらの分野は、米国経済と貿易全体に占める比率は小さい。

モルガン・スタンレーの試算では、鉄鋼とアルミ、洗濯機、太陽電池モジュールの合計は米輸入額の4.1%にすぎず、世界貿易額においてはわずか0.6%にとどまる。

トランプ氏自身も2日には「貿易戦争は望むところで楽勝だ」と豪語していたのに、5日は「貿易戦争になるとは思わない」と述べ、姿勢が軟化している。

世界的な貿易戦争への懸念で先週動揺した金融市場は5日に落ち着きを取り戻し、米国株は上昇した。

モルガン・スタンレーのストラテジスト陣は調査ノートに「最も深刻なシナリオ、つまり保護主義の動きが一番蓋然性が高いとは考えていない」と記した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中