東野圭吾や村上春樹だけじゃない、中国人が好きな日本の本
羅は文革の迫害で落命したが楊は昨年、91歳で死去。追悼の意味合いもあり、99年制作のドラマが繰り返し再放送され、ネット上の動画にもアクセスが急増。過去に『西遊記』や『駱駝祥子──らくだのシアンツ』などと共に「高校受験前に読むべき名著」に指定されたこともある。いま読むとプロパガンダ色が強過ぎ、信仰の力の強さや純粋な情熱に感動は覚えても、心からの共感は難しく、現代の若者は首をかしげつつ読んでいる。
幅広く読まれる日本書籍
それでも、半紀以上前の『紅岩』、四半世紀前の『活きる』がいま読まれることには意味がある。『活きる』は文化大革命などいまだ敏感な内容もあり、海外で好評を博した同名映画は現在も国内上映禁止だが、「教師が学生に薦める本」として広がった。親や祖父母の世代が経験や記憶を子や孫に語り継ぐきっかけにもなっているようだ。彼らが必死に生き抜いた時代はもはや現実味のない遠い昔話にすぎず、文学の力なくして若者に理解してもらうことは難しい。
東野圭吾作品以外にも、中国で読まれる日本の小説は幅広い。村上春樹はもちろん、昨年は芥川賞受賞作『火花』の翻訳版が刊行され、著者の又吉直樹が上海を訪れて話題を呼んだ。ネット書店「当当網」では太宰治の『人間失格』が何度も月間ベスト1に。太宰はもはやブームを超え、中国の若者にとって定番ともいえる人気作家だ。
書店では日本の小説の翻訳本がかなりのスペースを占め、手を伸ばせばすぐに届くところに豊富な選択肢がある。ソーシャルメディア上の読書コミュニティーでは、芥川龍之介、夏目漱石、松本清張、伊坂幸太郎、青山七恵、渡辺淳一ら作家の名前が縦横無尽に飛び交い、多くのファンが感動を語り合う。
ノンフィクションでも、稲盛和夫や黒澤明、建築家やデザイナーの自伝などが読まれている。ベランダのガーデニングや家庭菜園、インテリアや片付け、料理本などの翻訳も、書店の目立つ場所に所狭しと並ぶ。
中国で日本の本がこれだけ読まれているのに、日本では「反中本」は売れても中国の本そのものは読まれているとは言い難い。海外事情や文化、価値観を広く吸収しようとする姿勢、異文化理解、受容は国の発展の勢いと密接な関係にあるはずだ。そうである以上、現在の中国と日本の情報の非対称性は憂うべき問題ではないだろうか。
日本に気軽に旅行、留学する人が増大した今、情報もリアルタイムで更新、興味の対象は細分化され、日本は身近な存在だ。『東京一年』は、日記スタイルのノンフィクション。蒋方舟(チアン・ファンチョウ)は9歳で作家デビューし、一躍人気作家に。名門の清華大学に入学、卒業後も常に注目を集めてきた彼女が「東京は私を救ってくれた」、東京での1年のおかげで「本来のあるべき自分になれた」と記す。