最新記事

世界を読み解くベストセラー40

東野圭吾や村上春樹だけじゃない、中国人が好きな日本の本

2018年1月31日(水)18時21分
泉京鹿(翻訳家)

書籍でも今や中国市場は無視できない存在。中国人の読書傾向は多様だ Hisako Kawasaki-Newsweek Japan


20180206cover-150.jpg<ニューズウィーク日本版1月30日発売号(2018年2月6日号)は「世界を読み解くベストセラー40」特集。ニュースでは伝わらない、その国の本音を映し出すのが話題の本。8カ国、計40冊を取り上げたこの特集から、中国の記事を転載。厳しい検閲がロングセラー人気をもたらす中国で、国民が求めている「言葉」とはどんなものか>

近年、北京で読まれているベストセラーに顕著なのは、翻訳と古典的名作の圧倒的な強さだ。

17年上半期フィクションのトップは、中国版リメーク映画も製作された東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』。東野作品は何冊も同時にベストテン入りすることもしばしばという人気ぶりだ。

フィクションでは、ほかにアフガニスタン出身の小説家カーレド・ホッセイニの『君のためなら千回でも』、英作家クレア・マクフォールの『フェリーマン』、中国人SF作家である劉慈欣(リウ・ツーシン)の代表作『三体』、ガブリエル・ガルシア・マルケス『百年の孤独』、余華(ユイ・ホア)活きる(邦訳・角川書店)、羅広斌(ルオ・コアンピン)・楊益言(ヤン・イーイェン)『紅岩』など、この数年間売れ続けている超ロングセラーばかり。目新しいところでは周梅森(チョウ・メイセン)の人民的名義くらいか。

『人民的名義』は、昨春に空前のヒットとなったドラマの原作。最高人民検察院に所属する捜査員が某省の腐敗に切り込むが、錯綜する利権や愛憎、熾烈な権力闘争、腐敗の巨悪の前に、敵も味方も見えない。追われる側、追う側双方のITを駆使した攻防、汚職の手口や捜査技術のディテールとリアリティーが習近平(シー・チンピン)政権が進めてきた反腐敗運動、権力闘争の内幕を思わせる。

一方、ノンフィクションの上半期トップはイスラエルの歴史学者ユバル・ノア・ハラリの『ホモ・デウス』。世界的ベストセラー『サピエンス全史』の続編だ。そのほか台湾女性作家、龍應台(ロン・インタイ)の『父を見送る』などロングセラーで邦訳もある作品ばかり。中国では児童書に分類されている黒柳徹子の『窓ぎわのトットちゃん』も突出した存在で昨年、10年連続でベスト5入り。累計1000万部を超えた。

中国では、親や教師が子供に薦める良書がロングセラーとしてランキング上位に君臨し続ける。検閲で本当に書きたいこと、書くべきことが書かれていない近年の国内作品が、こうした往年の不朽の名作を超えるベストセラーになることは難しい。

『紅岩』は著者の羅と楊が解放(中華人民共和国成立を指す)前夜、重慶の国民党政府と米国特務機関の秘密監獄に監禁され、その後脱出して九死に一生を得た体験などに基づいて書かれた小説だ。「共産主義者の生きた教科書」として60年代前半に500万部近く売れ、建国以来のベストセラーとなった。文化大革命で周恩来を否定する材料にされ、毛沢東の妻である江青の圧力で発禁に。江青ら四人組が打倒されたのち、97年に改めて出版された。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

三菱UFJFG社長に半沢氏が昇格、銀行頭取は大沢氏

ビジネス

午後3時のドルは154円後半、米雇用統計控え上値重

ワールド

インド総合PMI、12月は58.9に低下 10カ月

ビジネス

プライベートクレジット、来年デフォルト増加の恐れ=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 8
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中