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「北を支援」中共機密文書は偽造

2018年1月6日(土)20時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

6.文書1は全体で4頁に及ぶが、途中に「対峙」と書くべきところ、「対持」という誤記がある。公文書でこのようなミスがあることは一般にない。

7.文書1には、「党領導的中国特色社会主義制度」(中国語のまま)という表現があるが、これは中共の政治構造を熟知していない証拠だ。中共は「党の領導」を「中国の特色ある社会主義国家」の重要な柱としており、人民と国家を党が領導すると規定しているのであって、決して「中国の特色ある社会主義制度」を「党が領導する」とはしていない。また「党が領導する制度」という形では規定していない。複雑になるが、この表現を見ると「ん?」という違和感を抱く。したがって文書1の作成者は、中華人民共和国憲法や党規約にある政治構造を熟知していないことが窺える。

8.また文書1には「あなたの部(対外聯絡部)は中共中央を代表して~しなければならない」という表現があるが、中共中央内部の文書では「党中央」とか「中央」と書くのであって、決して内部間の文書では「中共中央」とは書かないのが慣例である。同じ中国共産党(中共)内部のことだから(たとえば日本の内閣が大臣宛てにある指示を行なう時に、決して「日本国の内閣は」とは書かないのと似ている。外国に対してなら「日本国」を入れるだろうが、内部では入れない、というのと類似の感覚である)。

9.文書1の終わりにある日付の個所には印鑑が捺してあり、そこには「2017年9月15日」と書いてあるのに、その下の最後の行にある「印発」(印刷配布)という箇所には「2017年9月19日」と書いてある。この日付が異なるということはあり得ない。うっかりミスだろうが、中共中央では、このような類のミスは生じえない。

まだまだあるが、概ね以上で証拠は十分だろう。

中国外交部の報道官は、記者からのこの暴露文書に関する質問に対して「Fake news, fake document! 常識のある人なら一目でわかる!」と吐き捨てるように言ったが、残念ながら、その通りだと思う。

誰が捏造したのか?

実はアメリカの華人華僑社会では、いったい誰がこのような偽造文書を書いたのかに関してまで明確にさせている。犯人は亡命商人である郭文貴氏だと書き立てている。中国政府から国際手配されているので、アメリカ政府の庇護を受けたいために書いたのだと手厳しい。「自分はこんなに役立つ人間なので(このような機密文書まで入手できる人間なので)、どうか中国政府に引き渡さないでほしい」という切なる願望があるからとのこと。彼ならば、偽造文書を公開したのはこれが初めてではないので、さもありなんと思われる。

特に彼は中国の国家安全系列にいる知人との関係で不正を働いたと追及されており、この文書も中国の国家安全および情報系列の者から入手したとして、ワシントン・フリー・ビーコンの記者に渡したとされている。

郭文貴氏のことを書き始めると長くなるので、ともかく、この「機密文書」は偽造だという結論だけを、ここでは明確にしておきたい。時期が時期だけに、振り回されないようにしたいものである。

endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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