北朝鮮の金正恩 「狂気」の裏に潜む独裁者の帝王学
ただし、経済的自由が自身の追い落としにつながらないよう、同氏は細心の注意を払っていた。
2011年の正日氏の葬儀に付き添っていた幹部のなかには、改革を率いていた張成沢(チャン・ソンテク)氏もいた。張氏は正日氏の妹と結婚し、中国との窓口となり、数ある新経済特区を監督していた。
張氏は2013年12月、カメラの前で党中央委員会政治局から外され、クーデターを企てたとして糾弾された。「そのような愚かな夢を夢見ていた」と国営メディアは伝え、改革派としての自身の計画が諸外国によって認められることを期待していた、と付け加えた。
NISによると、張氏は高射砲によって「何十回」も撃たれ、同氏の遺体は火炎放射器で始末されたというが、確認することはできない。
開発独裁者
この時期から、正恩氏は個人崇拝を強化している。張氏の粛清が発表された日、党機関紙「労働新聞」は、正恩氏にささげる歌「われわれはあなたしか知らない」を掲載した。
またINSSによれば、正恩氏は翌年、自身の偶像化に重点を置き、核兵器やミサイルの画像を含むよう学校の教科書を改訂することを指示した。
偶像化キャンペーンは2016年に本格化し、ポップカルチャーや若者に向けて発信された。正恩氏が選んだ女性歌手で構成されるモランボン楽団が演奏や芝居を通して指導者への忠誠を求める一方、主要な建設事業を担う「青年突撃隊」が約1200点もの詩などの文芸作品を生み出したという。
「彼(正恩氏)は自身の正当性を経済状況の改善と結びつけている」と、延世大学のジョン・デルーリー氏は指摘。「金正恩氏は『開発独裁者』になりたいと考えている」
国内では、豊かさをもたらす者というイメージを打ち出している。2015年に撮影された正恩氏の写真のほぼ半数が経済イベントだったことが、韓国統一省のデータは示している。しかし今年は、相次ぐミサイル実験などにより、軍事的な場面での露出が再び目立っている。
「金正恩氏は、権力基盤と独裁政権を非常に巧みに強化しながら、既存のシステムをうまく利用している」と、INSSのLee Su-seok研究員は語った。
(翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)
[ソウル 30日 ロイター
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