最新記事

独裁者

北朝鮮の金正恩 「狂気」の裏に潜む独裁者の帝王学

2017年12月7日(木)11時45分

11月30日、トランプ米大統領の目には「紛れもない狂人」と映る北朝鮮の指導者、金正恩氏は、韓国が恐怖政治と呼ぶ支配体制への移行を6年かけて完了させた。だが、正恩体制をよく調べると、「狂気」の背後にあるメソッドが見えてくる。写真は5月、KCNAが公開(2017年 ロイター)

2011年12月の凍てつくような寒さのある日、北朝鮮の新指導者となった金正恩氏は、亡くなった父親の正日氏の棺を載せて平壌の通りを行く霊きゅう車に、7人の顧問らと共に付き添っていた。

現在、その顧問らは1人も残っていない。正恩氏は10月、父親の側近だった最後の2人を降格させた。どちらも年齢は90代だった。韓国情報機関、国家情報院(NIS)傘下の国家安保戦略研究所(INSS)によると、彼らは正恩氏によって粛清あるいは処刑された約340人の一部だという。

トランプ米大統領の目には「紛れもない狂人」と映る正恩氏は、韓国が恐怖政治と呼ぶ支配体制への移行を6年かけて完了させた。同氏の予測不可能で好戦的な態度は、世界に恐怖を植え付けている。29日に「画期的」なミサイルの発射実験を実施した後、正恩氏は北朝鮮が米国に対する攻撃能力を有する核保有国だと宣言した。

だが、正恩体制をよく調べると、「狂気」の背後にあるメソッドが見えてくる。

現在33歳の正恩氏は、世界でも有数の若い国家元首だ。同氏が受け継いだのは、冷戦時、共産主義国の中国と資本主義国の韓国とのあいだに緩衝国をつくる狙いで超大国が後ろ盾となり、社会主義国として誕生したという輝かしい歴史のある国である。

父親である金正日総書記は経済政策に失敗し、ソ連崩壊によって重要な支援源も失った。最大300万人が餓死したといわれる。

弱い立場からの脱却を目指し、若き指導者は3つの主力を開発することに注力してきた。軍事と核戦力、暗黙の民間市場経済、そして神の恐怖と崇拝だ。これらの達成に向け、正恩氏は重鎮2人を処刑し、実妹の与正(ヨジョン)氏を昇格させた。

与正氏は正恩氏の主な宣伝担当者だと専門家らは指摘する。彼女はまた、正恩氏にとって政治に関わっている唯一血のつながった親族である。実兄の正哲(ジョンチョル)氏は、父親が後継者に選ばなかった。

元上層部の脱北者を雇うINSSによると、2016年12月までの5年間で、正恩氏は29回に及ぶミサイル・核実験に3億ドル(約340億円)、家族の彫像460体の建立に1億8000万ドル、また、2016年の朝鮮労働党大会では、花火打ち上げ費用2680万ドルを含む10億ドルを費やしている。

「大勢の最高司令官や高官をいとも簡単に更迭し、一部は情け容赦なく殺害している。正気の沙汰とは思えない」と、韓国の梨花女子大学統一研究所の北朝鮮指導部の専門家、李生根氏は話す。

「だが、まさにこれこそが、長期にわたって政権の座にあり続けるための歴史的な支配方法なのだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油先物、週間で4カ月半ぶり下落率に トランプ関税

ビジネス

クシュタール、米当局の買収承認得るための道筋をセブ

ビジネス

アングル:全米で広がる反マスク行動 「#テスラたた

ワールド

トルコ中銀が2.5%利下げ、インフレ鈍化で 先行き
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 5
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 6
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中