最新記事

独裁者

北朝鮮の金正恩 「狂気」の裏に潜む独裁者の帝王学

2017年12月7日(木)11時45分


偉大なる指導者

はるか昔、平壌は、現代の「朝鮮」という言葉のルーツとなっている強大な国家、高句麗の首都だった。歴史をさかのぼると、「偉大なる指導者」という概念は、全能の神、親や天命をもつ王を敬う儒教の教えといったような、時と共に受け継がれてきたいくつかの思想が混ざり合って形成された。韓国国会立法調査処のLee Seung-yeol上級研究員はそう説明する。

北朝鮮指導部の主要研究者であるLee氏は、同国の継承理論に基づくなら、正恩氏は父親の存命中にもっと早く後継者に選ばれていてもおかしくなかったと指摘する。父親の正日氏は最高指導者となる20年前に後継者に選ばれ、側近や支配体制を築く時間があった。

正恩氏の場合は、後継者に選ばれてからわずか3年後に政権の座に就いた。

1984年生まれで継承順位が第3位だった正恩氏は、気難しく負けん気の強い子どもだったと、金一家の専属料理人を務め、子ども時代の同氏について知る数少ない人物の1人である藤本健二氏は言う。現在、平壌で日本料理店を営む藤本氏は、2010年に出版した回顧録のなかで、叔母の高英淑(コ・ヨンスク)氏に「小さな将軍」と呼ばれて正恩氏がかみついたことがあったと明かしている。「同志の将軍」と呼ばれたかったのだという。

正恩氏が間もなく後を継ぐことを知った父親の正日氏は、息子を守るための措置をいくつか講じた、と研究者らは指摘する。Lee氏によると、そのなかには、エリート層にライバル関係が生まれるよう権力基盤を変え、正恩氏が2つのグループを争わせることができるようにしたことなどが含まれるという。

貧者の兵器

正恩氏がまず最初に変えたのは軍事戦略だった。父親は、支援を得るための交渉の切り札として核軍縮の約束を使ったが、正恩氏も2012年2月、それを踏襲し、米国からの食糧支援と引き換えに自国の核プログラムを凍結すると約束した。

しかしそれから数週間後、同氏は方針転換し、北朝鮮が長距離ミサイル実験を実施することを明らかにした。「交渉は金正日氏の遺産として継続されていた」。2012年2月の合意に寄与した前年の6カ国協議で韓国代表を務めた魏聖洛氏はこう語る。

「これ以来、彼の戦略的な考えが出来上がっていった」

正恩氏は、イラクのフセイン元大統領やリビアの元最高指導者カダフィ大佐が弱体化して破滅したのは、核兵器を保有していなかったせいだと考えている。北朝鮮メディアはそう伝えている。

「強力な核抑止力は、外国からの攻撃を阻止するのに最大の力を発揮する宝刀であることを、歴史は証明している」と、国営の朝鮮中央通信社(KCNA)は2016年1月、論説でこう述べている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中