最新記事
中東

サウジ皇太子の改革を称賛する国民の本音

2017年12月6日(水)16時30分
スティーブン・クック(米外交評議会上級研究員)

悪徳有力者を一斉逮捕することで、ムハンマドは「弱者の声を代弁した」とナビルは言う。シンプルな言い方だが、これこそムハンマドの主張の核心でもある。要するに沼の水を抜いてゴミをさらっているのだ。

ナビルはムハンマドが改革に取り組む姿勢を高く評価する一方、山積する難題を処理する能力があるかどうかという点には疑問を抱いていた。「彼は全ての問題を自分で抱え込む。しかし1人の人間ができることには限界がある」。またイランとの敵対関係や泥沼化するイエメン内戦への介入についても、一定の懸念を示した。

同じ懸念を抱く人はほかにも2人いた(商店主と零細企業経営者)。1人はイエメンへの介入を「汚点」と呼んだ。しかしこの2人も、ムハンマドに対する期待を捨ててはいなかった。

リッツ・カールトンが留置場と化した数日後、ロイター通信は、今回の汚職摘発は宮廷クーデターの一種だと報じた。つまり、自分の王位継承に反対している王族が多いことにムハンマドが気付き、先手を打ったという解釈だ。

この記事を受けて、ある専門家はツイッターに、ムハンマドが腐敗一掃に乗り出したと真に受けるワシントンの一部アナリストはバカ者だと書き込んだ。

ムハンマドが自らの権力強化に動いているのは確かだが、ワシントンのアナリストをバカにするこの専門家にも、サウジ社会の現実が見えていない。

私が現地で出会ったサウジ国民はバカではない。これが王族の権力闘争であることくらい承知している。しかし宗教警察の弱体化など、これまでの改革を見た上で、ムハンマドを支持し、信じている。

ある教師は私に、ムハンマドには良心があると言った。だから腐敗に手を染めることなどあり得ない、と。

もちろん、最終的に結果を出せなければ面倒なことになる。しかし今のところ、少なくとも私の出会った限りでは、現地の人々が最も望んでいるのは腐敗の一掃と社会の自由化だ。そして、ムハンマドならそれを実現できると信じている。たとえ、その代償が彼の独裁の確立であるとしても。

From Foreign Policy Magazine

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!

気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを

ウイークデーの朝にお届けします。

ご登録(無料)はこちらから=>>

[2017年12月 5日号掲載]

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米韓首脳が電話会談、関税など協議 トランプ氏「状況

ワールド

中国の対抗措置は大きな間違い、「負け戦になる」=米

ビジネス

米国株式市場・寄り付き=大幅反発、ダウ1100ドル

ビジネス

ECBなど欧州当局、金融機関や債券市場の監視強化 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 7
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 8
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
  • 9
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡…
  • 10
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中