アメリカ企業でセクハラが続く理由
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Illustration by iStock.
<ハリウッドだけの問題ではない。女性蔑視的な文化を背景に、法律の不備が被害者に泣き寝入りを迫る>
アメリカでは職場でのセクシュアル・ハラスメント(性的嫌がらせ)は違法行為だ。そう定める法律ができたのは半世紀以上も前だが、セクハラは一向になくならない。
セクハラで告発されるのはハリウッドの大物プロデューサー、ハービー・ワインスティーンのような有名人ばかりではない。雇用機会均等委員会(EEOC)が16会計年度に受理したセクハラ被害の申し立ては7000件近い。加えて州当局に寄せられる苦情も何千件とある。
言うまでもなく、告発されるケースは氷山の一角だ。職場でセクハラに遭う被害者の圧倒的多数は女性だが、彼女たちのざっと4人に3人は泣き寝入りをすると、EEOCはみている。
泣き寝入りが多いのは、性差別を禁じた法律が裁判所の解釈で骨抜きにされてきたため。そして、アメリカ社会の隅々にはびこる女性蔑視的な風潮のせいでもある。勇気を出して苦情を申し立てても法的なハードルがあまりに高く、訴えを退けられるケースが多い。こうした状況はいくらでも改善できるが、議会も企業もまともにこの問題に取り組もうとしない。
公民権運動の高まりを受けて64年に成立した公民権法。その第7編には人種や宗教による差別と並んで、「性に基づく」雇用差別の禁止が明確にうたわれている。この規定の執行機関として設置されたEEOCが、当人に代わって連邦裁判所に提訴する権限を持つようになったのは、72年に雇用機会均等法が成立してから。以後、性差別事案も裁判で取り上げられるようになったが、当初は採用や待遇面での差別が問題になっただけで、セクハラ訴訟は皆無だった。
首都ワシントンに本部を置く連邦巡回区控訴裁判所が、職場でのセクハラを違法とする判決を初めて下したのは77年。「代償型セクハラ」(採用や昇進の条件として性的関係を迫る)は、明らかに雇用差別に当たるという判断だった。
EEOCは80年、この解釈を一歩進めて「環境型セクハラ」(体を触ったり、セクハラ発言を繰り返したりして、職場環境を相手にとって耐え難いものにする)も雇用差別に該当するという判断を示した。連邦最高裁判所は86年、この2つのタイプのセクハラを違法行為と認める判決を下した。
形だけの調査で責任逃れ
それでもなお重要な問題が残されていた。職場のセクハラに対して、雇用主(企業)の賠償責任が問われるのはどのような場合かということだ。