マインドフルネスが気になる症候群
コロラド州デンバーの学校で教師と瞑想に励む子供たち Andy Cross-The Denver Post/GETTY IMAGES
<教育現場でもマインドフルネスがブームだが、うちの子はロボットまがいの企業戦士にさせられる?という不安がよぎる>
ある日、息子を保育園に迎えに行くと、先生が子供たちを静かにさせようとしていた。小さな鈴をチリンと鳴らし、「みんな、息を大きく吸って」。
園児たちは深呼吸をした。効果はてきめん。すぐに静かになった。
以前なら気にも留めなかったかもしれない光景だ。しかし瞑想を基にしたマインドフルネスが「競争力」を鍛える手段として話題になっている今、深呼吸もただの深呼吸として片付けられない。息子は保育園で、マインドフルネスを教えられていたのだろうか。
集中力を養うためにマインドフルネスを採用するアメリカの学校は増えている。先生が園児に深呼吸させるのを見て、私は不安を覚えた。この社会はマインドフルネスという名のモンスターに首根っこをつかまれているのではないか。学校はマインドフルネスをどう使っているのだろう? 息子はロボットまがいの企業戦士に育つのか?
マインドフルネスとは仏教の瞑想から宗教色を取り除いたもの。学校では児童を静かに座らせ、呼吸を意識して心の中を見つめるよう指導される。感謝の気持ちを養ったり、五感を研ぎ澄ますレッスンもある。
特に人気なのはレーズンを使うエクササイズ。児童にレーズンを2粒与え、違いを観察させる。レーズンに触れ、香りを確かめ、最後は食べて味わう。
教育現場への普及を目指すNPO団体マインドフル・スクールズによれば、教師からの問い合わせは確実に増えている。瞑想は子供に増えている不安神経症や鬱を抑えるのに効果的だという。
14年にはカリフォルニア大学ロサンゼルス校などの研究チームが、低所得者層出身で大半がマイノリティーの児童約400人を対象にした調査結果を発表。瞑想を5週間続けた後では集中力と積極性が増し、以前より他人に思いやりを見せるようになったという。
そうはいっても、授業の一環として瞑想をさせるのは、やり過ぎではないのか。子供を行儀よくさせておきたいだけのようにも思えてしまう。
専門家に話を聞くと、不安はいくらか払拭された。「マインドフルネスは心の傷に貼るばんそうこう」と、スタンフォード大学教育学大学院のデニース・ポープ上級講師は言う。「応急処置として手軽に取り入れられ、効果は大きい」。だが教師と児童の負担が増えることは、ポープも認めている。
子供をしつけ、コントロールする方便として利用される恐れもある。昨年話題になったニューヨークの小学校の流出ビデオでは、教師が1年生の児童を「『心を静める椅子』に座りなさい」と怒鳴りつけていた。メリーランド州ボルティモアのある高校では、問題を起こした生徒を「マインドフルな部屋」で反省させるという。