最新記事

いとうせいこう『国境なき医師団』を見に行く(ウガンダ編)

人間には仲間がいる──「国境なき医師団」を取材して

2017年10月12日(木)16時45分
いとうせいこう

<「国境なき医師団」(MSF)を取材する いとうせいこうさんは、ハイチ、ギリシャ、マニラで現場の声を聞き、今度はウガンダを訪れた>

これまでの記事:「いとうせいこう、『国境なき医師団』を見に行く
前回の記事:「地上に名前の残らない人間たちの尊厳

ユンベから首都カンパラに戻る

あとは帰るだけだった。

ユンベという町にある、アフリカ人利用者の多い宿屋のまだ開いていないフロント前で早朝6時に待ち合わせたが、ドライバーのボサがなかなか出てこなかった。

5時半から待っていたという『国境なき医師団(MSF)』広報の谷口さんが現れたからまだしもだったが、自分たちはその日中に首都カンパラへ行き着けるものかわからなくなった。なにしろ11時間はかかるから、遅れは帰りの飛行機にも影響する。

不安になっていると、MSFの四駆で駆けつけるボサの姿が見えた。降りてくる彼に聞くと、泊まった部屋がなぜか頑丈な鉄扉で外から鍵をかけられ、出られなかったのだという。ボサの部屋は急な追加予約だったからホテルスタッフが部屋に誰もいないと勘違いしたのか、まさか金を払わずに逃げてしまう客からの自衛策なのか、いずれにしても本人にとってはなかなかハードなものだった。

「あれで火事が起きたらどうするんだ?」

ようやく起きてきた宿の男に向かって、ボサは激しく抗議した。

「死んでしまうじゃないか」

しかし、宿の男は無表情に聞いているだけだ。

首を横に振ってボサは四駆に乗り込んだ。来た道をまた長時間、俺たちは移動するのだ。

途中、8時にアルアでサモサとコーヒーを朝食にした。テレビにはBBCが映っていて、フランス大統領選で中道派マクロンと極右のルペンが候補として選出され、最終決戦に向かうと伝えていた。その決戦は2週間後だった。

ひとつ間違えばフランスが移民排斥に移行し、その影響は中東、アジア、アフリカにも及ぶ。その緊張感を俺はウガンダ北部の小さな町でひしひしと感じた。世界はいやがおうもなくつながっているのだった。

そこから9時間ほど、中途で行きと同じガソリンスタンドに寄り、ジャガイモを潰したものでゆで卵を包んだ軽食を試してみたりしながら、あるいはボサがマンゴーを道端の村人から買ったり、米を倉庫から購入したりするのを見ながらひたすら道を行った。

後部座席にほぼ寝ころんだままでいても、疲労は蓄積された。窓から見える景色に時おり注意していると、最後の1、2時間ほどは低い山や丘の連なりになった。つまり首都は高地にある国土の中でも高台を利用して作られているのだった。そこからは敵もよく見えただろうし、緑も多く、風も吹き渡った。

ito1012b.jpg

道端でマンゴーの房を買うボサ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ガザ攻撃強化 封鎖でポリオ予防接種停止

ワールド

プーチン氏、民間インフラ攻撃停止提案検討の用意=大

ビジネス

米景気後退の確率45%近辺、FRBへの圧力で長期影

ワールド

米国のウィットコフ特使、週内にモスクワ訪問=ロシア
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 3
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「利下げ」は悪手で逆効果
  • 4
    日本の人口減少「衝撃の実態」...データは何を語る?
  • 5
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 6
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 7
    なぜ世界中の人が「日本アニメ」にハマるのか?...鬼…
  • 8
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 9
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 10
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 7
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中