トランプ政権の最後のとりでは3人の「将軍たち」
ケリーには、アフガニスタンで息子を失った最高位の米軍司令官という別の顔もある。海兵隊員だった息子ロバートは10年に、アフガニスタンで地雷を踏んで死亡している。
14年に、ケリーはロバートの父としてカリフォルニアの戦没者遺族の会議に出席した。彼はイラクで警察署をトラック爆弾から守って戦死した海兵隊員2人の勇気をたたえた。海兵隊員らの軍人魂に対する賛辞が実に感動的であったのは、ケリーもまた戦死者の親だったからだ。
3人の将軍のうち、軍における地位が最も高かったのはマティス。ペトレアスの後を継いで中央軍司令官に就任したが、13年に突如、辞任した。多くの人はそれをオバマ政権(当時)への不信任とみた。
マティスは、イランの核開発に関する交渉でホワイトハウスは譲歩し過ぎだと不満を募らせていた。退役後にはオバマ外交への批判を始め、その声は徐々に大きくなっていった。そして14年にはワシントンの戦略国際問題研究所で講演し、容赦なくこき下ろした。シリアやイラク、リビアで状況が悪化し、テロ組織ISIS(自称イスラム国)の台頭を招いたのに、「大統領とその外交顧問は責任逃れの驚くべき才能を持っている」と批判したのだ。
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トランプに振り回される
国外での「混乱」を受け継いだとするトランプの発言はオバマの擁護者たちをいら立たせているが、それをずっと前に言い出したのがマティスだ。
今、マティスがその混乱を整理する中心人物になったことは驚きだ。彼はトランプ否定派ではないが、昨年の共和党大統領予備選でトランプが勢いを増していた頃、保守派の知識人ビル・クリストルから、対抗馬として出馬するよう要請を受けていた。また初めてトランプに会ったときも、率直に「選挙運動中のあなたの発言の一部は受け入れられない」と告げたそうだ。しかしトランプは、彼の懸念を一笑に付したという。「大丈夫。心配ない」
トランプは国防総省でのマティスの権限拡大を容認した。マティスはまず中東政策の再建を推進した。シリアのアサド政権が再び自国の国民に化学兵器を使用したときはシリアへの空爆を支持し、マクマスターと共にヨルダンやエジプト、サウジアラビアや湾岸諸国など、アメリカの伝統的な同盟国との関係を強化した。
前大統領と違って、トランプは細かいことに口を出さない。アフガニスタンにおける米軍の出口戦略の修正も、マティスらにほぼ丸投げしている。
そのせいもあって、マティスは大統領周辺とほとんど衝突せずにこられた。しかしトランプの衝動的な言動に不意を突かれることはある。
6月、サウジアラビアなどがカタールと断交したときのこと。トランプはツイッターで、カタールは過激派組織に資金を提供していると非難した。慌てたマティスは大統領に、カタールにある米空軍基地は中東における重要な拠点で、断交は軍事行動の大きな妨げになると進言した。以後、トランプはカタールの孤立化をあおるのをやめた。
トランスジェンダー(心と体の性が一致しない人)の米軍入隊を禁じるとトランプがツイートしたときもマティスは愕然とした。トランプは「将軍たち」と相談した結果だと書いたが、マティスは初耳だと明言。報道官を通じて、国防総省はツイッターに反応せず、大統領の正式な指示を待つと述べた。
内輪もめに巻き込まれるという点で、マクマスターはマティスほど運がない。国家安全保障を担う重要機関であるNSCではバノンとの対立に手を焼いた。対立はバノンの更迭という形で幕を閉じたが、2人はあらゆる点で意見を異にしていた。バノンは保護貿易派だが、マクマスターに言わせれば保護貿易は主要同盟国との関係を危うくする。また孤立主義者のバノンはアフガニスタンなどでの軍事介入に深い懸念を示すが、マクマスターとマティスとケリーは3人とも、アフガニスタンから手を引けば9・11同時多発テロを引き起こしたアルカイダとタリバンが再び連携する危険があるとの見解だ。