最新記事

米政府

トランプ政権の最後のとりでは3人の「将軍たち」

2017年9月5日(火)15時30分
ビル・パウエル(本誌シニアライター)

magw170905-us03.jpg

マクマスターらはいずれもイラク戦争に従軍。その体験が彼らの世界観に大きく影響した Craig F. Walker-The Denver Post/GETTY IMAGES

ケリーには、アフガニスタンで息子を失った最高位の米軍司令官という別の顔もある。海兵隊員だった息子ロバートは10年に、アフガニスタンで地雷を踏んで死亡している。

14年に、ケリーはロバートの父としてカリフォルニアの戦没者遺族の会議に出席した。彼はイラクで警察署をトラック爆弾から守って戦死した海兵隊員2人の勇気をたたえた。海兵隊員らの軍人魂に対する賛辞が実に感動的であったのは、ケリーもまた戦死者の親だったからだ。

3人の将軍のうち、軍における地位が最も高かったのはマティス。ペトレアスの後を継いで中央軍司令官に就任したが、13年に突如、辞任した。多くの人はそれをオバマ政権(当時)への不信任とみた。

マティスは、イランの核開発に関する交渉でホワイトハウスは譲歩し過ぎだと不満を募らせていた。退役後にはオバマ外交への批判を始め、その声は徐々に大きくなっていった。そして14年にはワシントンの戦略国際問題研究所で講演し、容赦なくこき下ろした。シリアやイラク、リビアで状況が悪化し、テロ組織ISIS(自称イスラム国)の台頭を招いたのに、「大統領とその外交顧問は責任逃れの驚くべき才能を持っている」と批判したのだ。

【参考記事】アメリカはウクライナで「航行の自由」作戦をやるべきだ

トランプに振り回される

国外での「混乱」を受け継いだとするトランプの発言はオバマの擁護者たちをいら立たせているが、それをずっと前に言い出したのがマティスだ。

今、マティスがその混乱を整理する中心人物になったことは驚きだ。彼はトランプ否定派ではないが、昨年の共和党大統領予備選でトランプが勢いを増していた頃、保守派の知識人ビル・クリストルから、対抗馬として出馬するよう要請を受けていた。また初めてトランプに会ったときも、率直に「選挙運動中のあなたの発言の一部は受け入れられない」と告げたそうだ。しかしトランプは、彼の懸念を一笑に付したという。「大丈夫。心配ない」

トランプは国防総省でのマティスの権限拡大を容認した。マティスはまず中東政策の再建を推進した。シリアのアサド政権が再び自国の国民に化学兵器を使用したときはシリアへの空爆を支持し、マクマスターと共にヨルダンやエジプト、サウジアラビアや湾岸諸国など、アメリカの伝統的な同盟国との関係を強化した。

前大統領と違って、トランプは細かいことに口を出さない。アフガニスタンにおける米軍の出口戦略の修正も、マティスらにほぼ丸投げしている。

そのせいもあって、マティスは大統領周辺とほとんど衝突せずにこられた。しかしトランプの衝動的な言動に不意を突かれることはある。

6月、サウジアラビアなどがカタールと断交したときのこと。トランプはツイッターで、カタールは過激派組織に資金を提供していると非難した。慌てたマティスは大統領に、カタールにある米空軍基地は中東における重要な拠点で、断交は軍事行動の大きな妨げになると進言した。以後、トランプはカタールの孤立化をあおるのをやめた。

トランスジェンダー(心と体の性が一致しない人)の米軍入隊を禁じるとトランプがツイートしたときもマティスは愕然とした。トランプは「将軍たち」と相談した結果だと書いたが、マティスは初耳だと明言。報道官を通じて、国防総省はツイッターに反応せず、大統領の正式な指示を待つと述べた。

内輪もめに巻き込まれるという点で、マクマスターはマティスほど運がない。国家安全保障を担う重要機関であるNSCではバノンとの対立に手を焼いた。対立はバノンの更迭という形で幕を閉じたが、2人はあらゆる点で意見を異にしていた。バノンは保護貿易派だが、マクマスターに言わせれば保護貿易は主要同盟国との関係を危うくする。また孤立主義者のバノンはアフガニスタンなどでの軍事介入に深い懸念を示すが、マクマスターとマティスとケリーは3人とも、アフガニスタンから手を引けば9・11同時多発テロを引き起こしたアルカイダとタリバンが再び連携する危険があるとの見解だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 6
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 7
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 8
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 9
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中