トランプ政権の最後のとりでは3人の「将軍たち」
トランプは海外の紛争から撤退し、貿易相手国に強硬姿勢を取り、イランとの核合意を破棄すると約束して大統領選に勝利した。バノンが経営していたブライトバートなど、ネット世代の白人ナショナリスト「オルト・ライト」がひいきにするウェブサイトは、こうした公約をマクマスターが骨抜きにしていると非難を強めている。
イランの件は言い掛かりだ。マクマスターは核合意からの離脱を望まない、故に親イラン派だと、オルト・ライトは決め付ける。しかしマクマスターは合意を「史上最悪の取り決め」と批判したトランプと同意見で、イランの影響力を「有害で中東の不安定化につながる」と述べている。その一方でヨーロッパの同盟国はアメリカが合意にとどまることを求めていること、離脱に踏み切れば外交に問題が生じることも、嫌というほど理解している。
間もなく混乱は収束しそうだ。ケリーが首席補佐官に起用され、北朝鮮情勢が緊迫してきたことで、「将軍たち」の足場は盤石になりつつある。7月31日、ニューヨーカー誌の取材で下品な暴言を連発したアンソニー・スカラムッチ広報部長が直ちに解任されたのも、ケリーが強く迫ったからだ。
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大統領の暴走を阻止できるか
「ケリーはスカラムッチをトランプ政権の面汚しと見なした」と、事情通は言う。ケリーは大統領に対して単刀直入に、こうした混乱は終わりにしてもらいたい、今後は私のやり方でやらせてもらうと告げた。大統領は了承し、スカラムッチは就任からわずか10日でホワイトハウスを追われた。
ケリーはまた、マクマスターとマティスに人事の裁量を任せるべきだと大統領に忠告。翌日マクマスターは情報活動シニアディレクターのエズラ・コーエンワトニックら、それまでトランプに庇護されていたバノン派の4人をNSCから追い出した。「ケリーが首席補佐官に着任した日は、バノンにとっては最悪の日、マクマスターにとっては最高の一日になった」。ある当局者は、感慨深げにそう言った。
マクマスターの権威に太鼓判を押すかのように、トランプは声明でオルト・ライトを牽制した。「マクマスターと私は非常にうまくやっている。わが国に尽くしてくれる彼に感謝する」
だが3人の将軍にとって、いい日はなかなか続かない。
8月5日に国連安全保障理事会が北朝鮮への追加制裁を採択すると、北朝鮮は「アメリカに代償を支払わせる」と反発、さらなる核実験やミサイル発射の用意があると挑発した。これに激高したトランプは8日、挑発をやめなければ「見たこともないような炎と怒りに直面する」と応戦。あまりに大げさな物言いに、誰もが唖然とした。マクマスターとマティスとティラーソンは慌てて韓国や日本に対し、すぐに軍事衝突が起きることはない、外交努力を続けると請け合った。
「知ってのとおり、トランプは切れやすい」とマクマスターの側近は言う。「しかしマティスとマクマスターとケリーの意見には、たいてい耳を貸す。つまり、口ではとんでもないことを言うが、とんでもない行動には出られないということだ」
とはいえ、「将軍たち」の意見を最も必要とする最悪の事態が起きたときもトランプは耳を貸すだろうか。そう尋ねると、この側近は肩をすくめた。「そればかりは分からない」
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[2017年9月 5日号掲載]