最新記事

米政府

トランプ政権の最後のとりでは3人の「将軍たち」

2017年9月5日(火)15時30分
ビル・パウエル(本誌シニアライター)

magw170905-us04.jpg

ケリーは海兵隊員だった息子をアフガニスタンで亡くした Nikki Khan-The Washington Post/GETTY IMAGEES

トランプは海外の紛争から撤退し、貿易相手国に強硬姿勢を取り、イランとの核合意を破棄すると約束して大統領選に勝利した。バノンが経営していたブライトバートなど、ネット世代の白人ナショナリスト「オルト・ライト」がひいきにするウェブサイトは、こうした公約をマクマスターが骨抜きにしていると非難を強めている。

イランの件は言い掛かりだ。マクマスターは核合意からの離脱を望まない、故に親イラン派だと、オルト・ライトは決め付ける。しかしマクマスターは合意を「史上最悪の取り決め」と批判したトランプと同意見で、イランの影響力を「有害で中東の不安定化につながる」と述べている。その一方でヨーロッパの同盟国はアメリカが合意にとどまることを求めていること、離脱に踏み切れば外交に問題が生じることも、嫌というほど理解している。

間もなく混乱は収束しそうだ。ケリーが首席補佐官に起用され、北朝鮮情勢が緊迫してきたことで、「将軍たち」の足場は盤石になりつつある。7月31日、ニューヨーカー誌の取材で下品な暴言を連発したアンソニー・スカラムッチ広報部長が直ちに解任されたのも、ケリーが強く迫ったからだ。

【参考記事】北朝鮮「グアム包囲計画」はまだ生きている

大統領の暴走を阻止できるか

「ケリーはスカラムッチをトランプ政権の面汚しと見なした」と、事情通は言う。ケリーは大統領に対して単刀直入に、こうした混乱は終わりにしてもらいたい、今後は私のやり方でやらせてもらうと告げた。大統領は了承し、スカラムッチは就任からわずか10日でホワイトハウスを追われた。

ケリーはまた、マクマスターとマティスに人事の裁量を任せるべきだと大統領に忠告。翌日マクマスターは情報活動シニアディレクターのエズラ・コーエンワトニックら、それまでトランプに庇護されていたバノン派の4人をNSCから追い出した。「ケリーが首席補佐官に着任した日は、バノンにとっては最悪の日、マクマスターにとっては最高の一日になった」。ある当局者は、感慨深げにそう言った。

マクマスターの権威に太鼓判を押すかのように、トランプは声明でオルト・ライトを牽制した。「マクマスターと私は非常にうまくやっている。わが国に尽くしてくれる彼に感謝する」

だが3人の将軍にとって、いい日はなかなか続かない。

8月5日に国連安全保障理事会が北朝鮮への追加制裁を採択すると、北朝鮮は「アメリカに代償を支払わせる」と反発、さらなる核実験やミサイル発射の用意があると挑発した。これに激高したトランプは8日、挑発をやめなければ「見たこともないような炎と怒りに直面する」と応戦。あまりに大げさな物言いに、誰もが唖然とした。マクマスターとマティスとティラーソンは慌てて韓国や日本に対し、すぐに軍事衝突が起きることはない、外交努力を続けると請け合った。

「知ってのとおり、トランプは切れやすい」とマクマスターの側近は言う。「しかしマティスとマクマスターとケリーの意見には、たいてい耳を貸す。つまり、口ではとんでもないことを言うが、とんでもない行動には出られないということだ」

とはいえ、「将軍たち」の意見を最も必要とする最悪の事態が起きたときもトランプは耳を貸すだろうか。そう尋ねると、この側近は肩をすくめた。「そればかりは分からない」

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

[2017年9月 5日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:アフリカのコロナ犠牲者17万人超、予想を

ワールド

米上院、つなぎ予算案可決 政府機関閉鎖ぎりぎりで回

ワールド

プーチン氏「クルスク州のウクライナ兵の命を保証」、

ビジネス

米国株式市場=急反発、割安銘柄に買い 今週は関税政
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ世代の採用を見送る会社が続出する理由
  • 2
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 3
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の「トリウム」埋蔵量が最も多い国は?
  • 4
    【クイズ】世界で1番「石油」の消費量が多い国はどこ…
  • 5
    中国中部で5000年前の「初期の君主」の墓を発見...先…
  • 6
    自分を追い抜いた選手の頭を「バトンで殴打」...起訴…
  • 7
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「天然ガス」の産出量が多い国は…
  • 9
    「紀元60年頃の夫婦の暮らし」すらありありと...最新…
  • 10
    SF映画みたいだけど「大迷惑」...スペースXの宇宙船…
  • 1
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 4
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
  • 5
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 6
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 7
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 8
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 9
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 10
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中