最新記事

オピニオン

アメリカはウクライナで「航行の自由」作戦をやるべきだ

2017年9月1日(金)19時30分
ステファン・ブランク(米国外交政策評議会上級研究員)

ケルチ海峡に面するクリミアの海岸で釣りをする男性。遠くに見えるのは、ロシアとクリミアを陸路で結ぶためロシアが建設中の橋 Pavel Rebrov-REUTERS

<ロシアが、ロシア本土とクリミア半島の間のケルチ海峡を封鎖した。ウクライナに対する揺さぶり、アメリカに対する挑発だ。米艦船を派遣してケルチ海峡を通過せよ>

ロシアは8月7日、ロシア本土とクリミア半島の間のケルチ海峡を一時封鎖する、と発表した。8月と9月の間の計23日間に及ぶという。8月9日には早速、朝6時~夜6時の間、ロシア海軍の艦船以外は通行ができなくなった。

ケルチ海峡は多くの商船も行き交う国際水域。しかもクリミア半島は2014年にロシアが違法に併合したウクライナの領土だ。封鎖する権利はロシアにはない。表向きの理由はロシアとクリミア半島を陸路で結ぶためケルチ海峡に建設している橋の工事だが、その橋自体がクリミア実効支配の象徴だ。

ケルチ海峡の封鎖はウクライナに対する脅しであり、ドナルド・トランプ米大統領に対する侮辱だ。

ロシアの狙いがウクライナ経済を揺さぶることにあるのは明らかだ。ケルチ海峡は、ウクライナ東岸のアゾフ海から黒海への唯一の出口。ウクライナ産の鋼材をヨーロッパに輸出するためのマリウポリとベルディアンスクという戦略的に重要な2つの港湾都市もある。ウクライナの社会、政治、経済を自在に攻撃できる、というのがロシアの合図だろう。

kelch.jpg
Googleマップ

ケルチ海峡の封鎖は、アメリカに対する攻撃でもある。もしロシアがウクライナ問題についてトランプと本気で話し合いたければ、今回の行動には出なかったはずだ。

ロシアのドミトリー・メドベージェフ首相が8月3日にツイートで、トランプは米国内で屈辱的なほど弱い立場に置かれていると発言したのも、ロシア政府がトランプやトランプ政権をバカにしていることの表れだ。

ロシアの軍事力は限界

だが、ロシアが無傷でウクライナやアメリカに対抗できると考えたら大間違いだ。ロシアはクリミア併合以降続いている欧米からの経済制裁で着実に疲弊しており、国防費や重要な国内投資さえ削減せざるを得ない状況だ。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は従来と変わらず強気のふりをしているが、実際には、ウクライナを脅すにも交通の封鎖や経済戦争、サイバー攻撃、テロなど、軍事力以外の手段しか使えない。

ロシアはウクライナ周辺で軍事力を拡大し、今後もさらなる増強を試みているが、ウクライナに侵攻するための国力は、多分すでにない。

ロシア軍の兵士は総勢35万人だが、そのうち戦闘に参加できる兵士はおよそ3分の1だけ。軍事力の増強は難しくなっている。

だからこそ、ロシアはアメリカと対等の大国だと見せかけるために、アメリカに批判的な発言や見せかけだけの行動で強がるしか方法がない。

ウクライナの主権と国家としての統一性、さらには1789年以降のアメリカの外交政策の基礎となってきた航行の自由を証明するため、アメリカは米海軍の艦船をケルチ海峡に派遣し、通過させるべきだ。(中国が領有権を主張する南シナ海で米海軍が実施している航行の自由作戦と似ている)。

そしてNATOも続くべきだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中