最新記事

土星探査機

土星探査機カッシーニ、最終任務は衛星タイタンへの「最後のキス」

2017年9月1日(金)15時00分
メーガン・バーテルズ

土星に突入したカッシーニは地表面に到達する前に大気中で消滅する NASA/JPL-CALTECH

<13年にわたって土星探査を行ったNASAの探査機カッシーニが、今月15日にその使命を終え、土星の大気に突入して燃え尽きる>

NASA(米航空宇宙局)の土星探査機カッシーニは、2週間後に燃料を使い切り、13年に及んだ土星周回のミッションを終えて、土星の大気に突入してその生涯を閉じる。

カッシーニのプロジェクトを担当してきた科学者たちには、いずれこの時が来ることはわかっていた。29日に行われた会見でNASAのリンダ・スパイカーは、「予定通りの最後だ」と語った。「土星の夏至にあたる時期までしか燃料は搭載していない。その最期の時が来た」と言う。

「自殺」するのは悲しい運命のようでもあるが、生物が生息できる可能性のある衛星エンケラドスなどに、地球からカッシーニが持っていった微生物が侵入する事態は回避しなければならない。

【参考記事】人類共通の目標に大きな一歩、NASAが地球と似た惑星を7つ発見

しかしその前に、カッシーニには重要な任務が残っている。NASAは早期の段階で探査機を壊すのを避けるため、最も危険な任務は最後に回しているのだ。

捨て身のジャンプ

カッシーニはこれまでに22回土星を周回し、その間に土星とリングの間にも「ジャンプ」している。そして今月9日、最後のリングへの接近を試みる。

これまでのジャンプでは、リングの内側からの光景を送信してきただけでなく、リングの成り立ちについて学ぶ機会を提供している。まだ解明されていないのは、リングがどれだけのどんな物質でできているかという点だ。

リングを形成する物質が大きければ、リングも土星と同じ時期に形成されたと考えられる。しかし、もし小さければ(現状ではこちらの可能性が高いが)、リングは土星より新しく、おそらく土星に接近し過ぎた彗星や衛星が巨大な重力で破壊されてできたと考えられる。

【参考記事】「地球の気温は250度まで上昇し硫酸の雨が降る」ホーキング博士

cassini02.jpg

4月以降のカッシーニの軌跡。オレンジのラインが土星突入への最後の経路 NASA/JPL-CALTECH

また土星の大気とリングの間にどんな化学反応があるのかもわかるだろう。土星の大気は、カッシーニがこれまで危険を冒して大気に進入してくれたおかげで、想像以上に複雑な組成だったことがわかっている。

そしてリングに近づく最後の任務がうまくいけば、リングの局地的な物質の密度の濃さや縞模様など、いまだに科学者が解明できていない謎に迫ることができる。

カッシーニはリングのそばを通り過ぎるといったん土星から遠ざかり、最大の衛星タイタンに接近する。タイタンの巨大な重力にカッシーニは推進力を奪われ、次に土星に戻る時にはもうその重力から逃れられなくなる。そのためNASAはタイタンへの接近を「最後のキス」と呼んでいる。

【参考記事】宇宙からのメッセージ!? 11光年先の惑星から謎の信号

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中