最新記事

中国政治

中国共産党のキングメーカー、貴州コネクションに注目せよ

2017年7月27日(木)11時30分
トリスタン・ケンダーダイン(大連海事大学行政学講師)

貴州の州都・貴陽はビッグデータの中心地として経済発展を遂げつつある VCG/GETTY IMAGES

<重慶トップをめぐる最新人事が浮き彫りにした、内陸の貧困省・貴州の計り知れない存在意義>

中国政府は7月15日、孫政才(スン・チョンツァイ)重慶市共産党委員会書記(53)の罷免を発表した。中国南西部における国家工業政策と権力の中心、重慶のトップの座には代わって陳敏爾(チェン・ミンアル)が据えられた。孫は、党指導部に位置付けられる政治局員の地位からも追われる可能性が高い。

胡錦濤(フー・チンタオ)前国家主席に近かった孫は、胡春華(フー・チュンホア)広東省党委書記と並ぶ若手の政治局員だ。習近平(シー・チンピン)が国家主席に就任した当初は胡春華と共に、中国共産党の最高意思決定機関である政治局常務委員会メンバーへの昇格がほぼ確実視され、次の国家主席候補の1人と目されていた。

習が権力基盤の強化へ動くなか、今や党中枢は自らの意にかなう後継者候補の育成に動いている。とはいえ孫から陳への交代劇は、単なる政治的駆け引きの表れではない。そこには制度的・地域的な権力の構図が反映されている。

今回の人事で、陳は今秋に予定される第19回党大会で政治局員に選ばれることが確実になった。一足飛びに常務委員にはなれないとしても、22年の第20回党大会で昇進する可能性は高い。それも序列1位に駆け上ることになるかもしれない。

陳は重慶トップに抜擢される前、貴州省党委書記だった。重慶に近い貴州は貧困が巣くい、村落レベルで開発が行き詰まる内陸の地。行政の枠組みから取り残されているに等しい地域だ。

【参考記事】孫政才失脚と習近平政権の構造

貴州赴任で能力をテスト

国内の他地域では、都市化によって貧しい村が豊かな工業地帯に変貌しているが、ここではそんな動きは当然のように失敗してきた。だがその貴州は、中国共産党にとってキングメーカー的位置を占めている。

貴州は鉱物資源や水資源が豊富だ。沿海部の経済成長と切り離されつつも資源供給源としてその成長を支え、今世紀に入って中国が急成長を遂げる間、水力発電や従来産業を頼みに生き延びてきた。その一方で省内では、政府のインフラ整備の残骸となった橋や道路が目に付く。

だが、貴州は進歩的な政策の舞台でもある。中央から遠い同省で失敗しても大した影響はないため、中央政府にとっては格好の「政策実験場」なのだ。

同時に、貴州は長らく有望な人材の試験場としても機能してきた。貴州への赴任という回り道は、北京で出世を遂げる上での定番コースといっていい。

貴州省党委書記を経験した有力者は数多い。最も有名なのは胡錦濤だ。85~88年までその職を務め、最終的に国家主席まで上り詰めた。

習の側近、栗戦書(リー・チャンシュー)党中央弁公庁主任も貴州の元トップだ。秋の党大会で政治局常務委員会入りする可能性のある栗が、貴州省党委書記の座にあったのは10~12年。その後、目覚ましい昇進ぶりを見せた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アクティビスト、世界で動きが活発化 第1四半期は米

ワールド

フィンランドも対人地雷禁止条約離脱へ、ロシアの脅威

ワールド

米USTR、インドの貿易障壁に懸念 輸入要件「煩雑

ワールド

米議会上院の調査小委員会、メタの中国市場参入問題を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中