母ダイアナの死と心の傷を乗り越えて ヘンリー王子独占インタビュー(後編)
フロリダ州で開催されたインビクタス・ゲームの開会式で挨拶するヘンリー(2016年) Chris Jackson/GETTY IMAGES FOR INVICTUS
<ダイアナ元妃の死後、長らく精神的なダメージに苦しんだヘンリー王子は、今メンタルヘルスの解決を支援する活動に取り組んでいる。本誌単独インタビューの後編>*この記事はニューズウィーク日本版2017年7月4日号に掲載したものです。
そして最後の役割は、これまでの王族が考えもしなかったメンタルヘルスの問題に取り組むことだ。この活動は現在、ヘンリーが兄夫妻も巻き込んで、イギリス政府と協力して進めている。「政府には資金があり、私たちには発信力がある」と思うからだ。
この活動は、たぶん王子自身の問題の解決にも役立つ。彼は何度か「持って生まれた性格も変えることができる」と断言したが、それはある程度まで自分のことを言っているようだ。
ヘンリーは09年に、兄と共にロイヤル財団を立ち上げた(後に兄の妻キャサリン妃も加わる)。そのプロジェクトの1つ「フルエフェクト」は、ギャングに引き込まれかねない貧しい子供たちをスポーツを通じて、前向きに導くことが目標。筆者は王子と一緒に、イングランド中部のノッティンガムにあるフルエフェクトの現場を訪れた。
最初に立ち寄ったのは市内のナショナル・アイスセンターの屋外。ヘンリーの「普通」の側面には全く興味のない9歳の少年少女約30人が集まっていた。彼らが求めていたのは壮大なショーと、王子らしいオーラだった。
普段着のヘンリーはジョークを連発し、子供たちを笑わせ、くつろがせた。ヘンリーがラグビーボールを男子に投げ付け、サッカーボールをあちこちに蹴ったので子供たちは目を丸くした。
約20分後、王子はロイヤル財団のスポーツコーチ養成プログラムに参加する16~24歳のグループと話をした。その若者たちの大半は機能不全の家庭に育ち、学校にもなじめず、ほとんど何の支援も受けていなかった。
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人々を魅了する「共感力」
次に立ち寄ったのは、貧困地区にあるラッセル・ユースセンター。「ここは学校や青少年施設、スポーツ施設から締め出された子供たちの避難所だ」と、運営者のトレバー・ローズは言う。
ヘンリーの到着前、10代の若者たちはほとんどが王子の訪問に無関心を装っていたが、ローズは心配していなかった。「危険にさらされている若者は人を簡単に信用しない。でもヘンリーに会えばすぐに、彼が自分たちと同類であることが分かる」
実際、そのとおりだった。ヘンリーは多くの若者と握手し、少年の背中をたたき、少女を抱き締めて冗談を言った。最初はしらけていた若者たちも、すぐに王子を取り囲んで一緒に写真を撮ろうとせがみ始めた。
「王子が自分たちを見守っていると思うことで、子供たちは勇気づけられる」とローズは言う。「ヘンリーはいわゆる王子様とは違う。ただ握手をして、挨拶して終わりじゃない。彼は子供たちの人生の一部となった。彼が熱心なのも、こうした活動を通じて人生の意味が見えてくるからだろう」
ヘンリーは名門中等学校のイートン・カレッジを卒業後、10年間軍務に就き、アフガニスタンで戦闘任務に従事した。戦闘部隊の一員であることを誇りにしていたから、反政府勢力タリバンの標的になるとして戦線離脱を命じられたときはひどく落ち込んだ。