母ダイアナの死と心の傷を乗り越えて ヘンリー王子独占インタビュー(後編)
軍隊での経験で彼は明らかに変わった。人間として成長し、自分の「使命」を獲得した。それは負傷した軍人への支援だ。14年に彼が始めた傷病兵による国際スポーツイベント「インビクタス・ゲーム」は大成功を収め、今では毎年恒例の行事になっている。
ヘンリーは兄夫妻と共に心の病気にまつわる偏見を取り払うための慈善事業ヘッズ・トゥゲザーも立ち上げており、その一環としてロンドン救急車サービスセンターを訪問。トラウマと鬱病について話した。
彼はここでも自らのアフガニスタンの戦場での体験に触れながら、救急車両の運転係や救急救命士らに共感の意を示し、こう語り掛けた。「あなた方が日々、対処しなければならない状況はものすごい。攻撃や虐待、あらゆることに遭遇する可能性がある。そういう状況で目を背け、知らぬ顔をするようでは人間失格。でも、皆さんは本当に頑張っている」
会場にいた救急救命士のダン・ファーンワースは子供の虐待死など、特に耐え難い事件を扱った後のPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しんでいた。ファーンワースは自分の落ち込んだ「深い暗闇」について話し、でも心的障害を認めれば仕事を続けられなくなるという不安を打ち明けた。
ヘンリーはうなずき、王子というよりは心理療法士のように語り掛けた。「人に打ち明けることは本当に重要だ。何週間も、何年も心に不安を抱えていると、それが本当の問題になる。本音を打ち明けて、前に進むことこそ強さだ。クビになると困るから話せないという気持ちは分かる。でも、心の問題を放置しておくほうがずっと危険だ」
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こうした「共感力」が最もよく現れるのは、ヘンリーが軍人仲間のような人々と触れ合うときだ。慈善団体ヘルプ・フォー・ヒーローズの退役軍人医療センター訪問に同行したのは、よく晴れた寒い日だった。たき火の傍らで数人の男がおしゃべりしながら、心理療法を兼ねた木工作業に励んでいた。
彼らは全員、英軍の傷痍軍人だ。肉体的な傷はほぼ癒えたが、鬱やストレスやアルコール依存などの精神的な問題を抱え、心理療法や生活支援を受けるためにセンターに通っている。
ヘンリーは彼らの気持ちに寄り添いながら、ジョークを交わした。ヘンリーは言う。軍人仲間との友情や「ブラックユーモア」が懐かしいと。
彼はアフガニスタンで09年に重傷を負った元狙撃兵のマイク・デイに、いきなり核心を突く質問をした。「負傷の前後で、どう変わった?」
デイは少し間を置いて、おもむろに答えた。「自分じゃなくなった」
動揺してもおかしくない瞬間だ。しかしヘンリーはひるまず、こう励ました。「頑張るんだ、自分を生きなくちゃ。ただ存在するだけじゃなくて」
デイはうなずいて続けた。「月に1度はここで4日を過ごしている。その間は調子がいいんだ」
ヘンリーはもっと対話を続けたい様子だったが、あいにく次の予定が迫っていた。去り際に、王子は声を掛けた。「頑張れよ、みんな」