ヘンリー王子が語った母の死と英王室(前編)
ヘンリーは傷病兵によるスポーツ大会「インビクタス・ゲーム」を創設した Chris Jackson-REUTERS
<ダイアナ元妃の急死による喪失感と心の傷に向き合い、自分探しを続けるヘンリー王子に本誌が単独インタビュー>*この記事はニューズウィーク日本版2017年7月4日号に掲載したものです。
葬送の列はいつだって悲しい。でもあれは最高に残酷で、最高に悲しい光景だった。1997年の9月6日、まだ12歳のヘンリー王子は父チャールズ皇太子や兄ウィリアム王子らと並んで、わずか1週間前に亡くなった愛する母のひつぎの後を黙々と歩いた。しかも衆人環視の下で。
ダイアナ元妃がパリで、謎の交通事故で世を去ったのは20年前の8月31日。すっかり大人になったヘンリー(32)だが、あの悲しい日のことを思うと今も胸が張り裂けそうになるという。
「母親が死んじゃって、そのひつぎに従って長々と歩かされた。周りで数千人が僕を見ていて、それをさらに数百万人がテレビで見ていた」。ヘンリーはそう言って顔を曇らせた。「どんな状況であれ、子供にあんなことをさせちゃいけない」
母の死と、葬儀の日の悪夢による心の傷はなかなか癒えず、ずっと気持ちの整理がつかなかった。だからたばこも酒もやり過ぎた。仮装パーティーでナチスの軍服を着て批判されたこともある。12年にはラスベガスのホテルで羽目を外した「ヌード写真」が流出した。世界中の女性が憧れる独身男は英王室の頭痛の種でもあった。
でも今は違う。王族の輝きと親しみやすさ、自信とちゃめっ気を兼ね備えた(つまり母ダイアナによく似たキャラクターの)青年だ。王子はかつての反抗的なアウトサイダーから、世界で最高に「愛される王族」の1人へと変身しつつあるようだ。もちろん、リハビリには長い自分探しの旅が必要だったし、その旅はまだ終わっていない。しかし王子は自分がここまで立ち直れたことを誇りに思い、「王子以外の何か」でもありたいと語った。
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昨年来、本誌はヘンリー王子の公務に同行する許可を得て取材を続けてきた。そして筆者は、ロンドン中心部にあるケンジントン宮殿での単独インタビューに成功した。
出迎えてくれたヘンリーは水色の開襟シャツにチノパン、グレーのスエードの靴というカジュアルないでたち。心を込めて熱心に語ってくれたが、ガードは固かった。しかし過去数年の自分の変化については、驚くほど率直に話してくれた。
この4月には英テレグラフ紙のポッドキャスト番組で、母の死をめぐる悲しみにふたをしたことで2年ほど「大混乱」に陥り、「破綻寸前」までいったと明かしている。そして28歳の時、ウィリアムの勧めもあって専門家に助けを求めたという。
「今では現実を直視して、周囲の人の声に耳を傾けるようになった。そして自分の立場を何かに役立てようと思っている。今はやる気満々。慈善事業も人を笑わせることも好きだ」と彼は言う。「今でも、自分が金魚鉢の中にいるような感覚を覚えることがある。でも自分を見失うことはなくなった。まだやんちゃな部分もあるが、だからこそ問題を抱えた人々に共感できる」