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インフレターゲットがうまくいかない理由

2017年7月14日(金)10時00分
ダニエル・グロー(欧州政策研究センター所長)

リフレの兆しは見えても

その主な貿易相手国であるドイツは現在、完全雇用と言っていい状況だが、賃金上昇率はせいぜい2%。インフレは進まず、経常収支の黒字が拡大し、周辺国の競争力をそいでいる。

ECBはユーロ圏内の平均値に合わせて金融政策を策定すべきだ。だが、こうした競争力の不均衡が早めに是正されていれば、舵取りはもっと容易なものになっていただろう。

真の問題は「インフレ2%近辺」が望ましいかどうかではない。そもそも量的緩和は非常手段だ。今や金融市場は数年前とは違って活況を呈し、金融取引の条件も改善して景気が拡大し、デフレの影もない。

【参考記事】経済政策論争の退歩

ECBのマリオ・ドラギ総裁は先頃、リフレ圧力が「じわりと定着している」と述べた。もはやデフレの脅威は去り、金融政策によりインフレに導くリフレ効果が上がっているというのだ。すると市場は、マイナス金利も国債購入も終わりかと勘違いし、ユーロ相場を上昇させた。ECBはそのような見解をすぐに否定した。

だが、それこそ金融政策における勘違いではないか。太陽が出てきたのに雷雲の下のような政策を続けても意味はない。ECBは針路を反転させるほどの必要はないとしても、デフレとの闘いで勝利宣言して緊急措置からの脱却を図るべきだ。

©Project Syndicate

[2017年7月18日号掲載]

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