風呂に入れさせてもらえないか──ウガンダの難民キャンプで
するとおじさんは両手で何かをすくって肩にかける仕草をしながら、聞き取れない単語を繰り返す。聞いていた3人の女性陣も、それをよりきれいな発音で伝えようとするのだが、いかんせんよくわからない。
「ウェア・ユー・ベーシング?」
何度も聞いてようやく、どこで風呂に入っているのかと俺に聞いているのだとわかった。しかし意図はまだ不明だった。俺はとりあえず答えた。
「遠くのカラテペです。11時間くらい行ったところの」
するとダウディおじさんはがっくりと肩を落とし、首を弱々しく振ったあと、もう一度何かを振りしぼるように顔を上げた。
「今日はどこで入るんだ?」
「えっと、たぶんビディビディまで行って、MSFの施設かどこかで、だと思いますが」
おじさんはビディビディと聞いてまた悲しい目をしたが、そのまま俺を見つめて嘆願した。
「わたしもその風呂に入れさせてもらえないか。ずっとまともに体を洗っていないんだよ。君と一緒に移動して、そこで入れればどんなにありがたいか」
俺は答えに詰まった。ビディビディまで1時間以上かかるはずだった。そこからこのインデピまで戻る時間もおそらくない。それどころか自分がどんな場所に宿泊するのかさえ、本当のところ知らなかったし、そこにシャワーがあるかどうかも不明だった。谷口さんに聞こうにも、彼女はどこか別の場所で別のインタビューをしていた。
「出来ません。すいません。遠いんです。つれて行けないんです」
女の子たちもそこには一切口を出さずにいようとしていた。俺はおじさんの目をずっと見ているつもりだったが、その充血した青灰色の目が心の底からの願いを訴えているのがわかるだけに、とうとう下を向いてしまった。
「すいません」
もう一度そう言うと、おじさんもまたもう一度言った。
「ずっとまともに体を洗っていないんだよ」
と。
俺は黙ってうなずくしかなかった。