仏議会選に向けて右旋回を目指すマクロンの試練
オランド(写真左)の「決められない政治」との決別をアピールするマクロン REUTERS
<政権と議会、大統領と首相のねじれを避けて改革を実施するには、即席の新党で今月の議会選に勝たねばならない>
フランスのエマニュエル・マクロン大統領率いる新党「前進する共和国(REM)」にとって、それは願ってもない宣言に思えた。
社会党のフランソワ・オランド前大統領率いる政権で首相・内相を務めたマニュエル・バルスが「社会党は死んだ」と宣言。6月に実施される国民議会(下院)選挙ではマクロンの新党から出馬する意向を発表したのだ。
ところが公認候補の選考に当たるREMの委員会は、バルスの申し出を拒否。これには誰もが耳を疑った。マクロンはバルス首相の内閣で経済相を務めている。しかも、大統領選で社会党の候補を差し置いて自分を支持してくれたバルスは、マクロンにとっては恩人のはずだ。
それでもあえてバルスを切った苦渋の決断が、マクロンの直面するとてつもない試練を物語っている。マクロンは自分を選んでくれた有権者を説得しなければならないのだ。議会選ではこれまでの支持政党を捨てて、REMに入れてほしい、と。
REMは、マクロンが大統領選に向けて1年前に結成した政治グループ「前進!」から発展した政党だ。当然、国政レベルの選挙の洗礼を受けたのは大統領選が初めてで、6月11日に第1回投票が行われる議会選で政党としての実力が問われる。
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REMが狙うのは幅広い中道の有権者層だ。この層の多くは大統領選でマクロンに投票したが、極右政党「国民戦線」のマリーヌ・ルペン候補よりはましという消去法による支持だった。
マクロンは大統領選で改革を訴え続けてきた。労働市場の規制緩和を進め、社会保障制度を見直し、企業寄りの政策を導入し、再生可能エネルギーなどへの公共投資を拡大する......。こうした野心的な計画を実施するには、政権と議会のねじれ現象は何としても避けたい。
さらにフランス政治に特有の、大統領と首相の党派が異なる保革共存(コアビタシオン)も改革の足を引っ張る。マクロンは共和党のエドゥアール・フィリップ議員を首相に任命し、暫定的な内閣を発足させたが、議会選後に内閣改造が実施される見込みだ。
国民議会の定数は577。小選挙区制で、REMはできるだけ多くの候補者を擁立しようと、約1万9000人の応募者から有望な人材を絞り込み、最終的に526人の候補者リストを発表した。
候補者選びは困難を極めた。マクロンの試みは現代のフランスばかりか、どこの国の政界でもまず前例のない政治的チャレンジだ。既成政党からのくら替え組と政治の素人を擁立して、全く新しい政党を議会の多数党に仕立てようというのだ。