I'm loving itからI'll be backまで、あの言葉はなぜ記憶に残るのか
ではビジネスの場面では、繰り返し可能などんな事例があるだろうか。たとえば、ゼロックス・カナダの販売部門副社長はチームに向かって「Finish strong(最後まで頑張れ)」と繰り返し檄を飛ばしていた。このとき彼はちょうど、ガン撲滅支援を目的としたおよそ1000キロの自転車レースを終えたばかりだったから、個人的な経験に根ざしたメッセージだった。あるいはメタスイッチのマーケティング部門の幹部が、電気通信業界でのキャンペーンで「Make the call(決断を下せ)」と命令し、パートナーがテクノロジーを新しい消費者志向にシフトするよう仕向けているのを聞いたことがある。マクドナルドで営業部門の新しい副社長に昇進したばかりの女性は、「The best is yet to come(最良のときはこれからだ)」と言って新しいチームのモチベーションを高めていた。いずれのメッセージも複数の文脈で利用可能だ。
様々な環境に応用できると同時に、様々な環境からキューを与えられる文句は、どのようにして作り上げていけばよいだろう。まずは総称的な表現を心がけよう。人称代名詞を少なめにして、文章を現在形に統一する。『ジョーズ』の「大型船を呼ぼう」という台詞は、「You're gonna need the bigger boat」と定冠詞を使ってもよかったが、それでは応用できる状況の範囲が限定されてしまう。あるいは、マクドナルドの副社長は、「The best is yet to come in the food industry(食品業界の最良のときはこれからだ)」と言ってもよかったが、これではポータビリティーが少なくなってしまう。
繰り返し可能なメッセージを作りたければ、相手があなたのメッセージを様々な文脈に取り入れてくれるかどうか考えてみよう。あなたのお気に入りのメッセージを聞いた人たちは、スーパーマーケット、ジム、ペットホテル、あるいは赤の他人がハサミを手に近づいてくる新しいヘアサロンなどで、それを繰り返してくれるだろうか? 「May the force be with you(フォースと共にあらんことを)」(映画『スターウォーズ』より)
『人は記憶で動く――相手に覚えさえ、思い出させ、
行動させるための「キュー」の出し方』
カーメン・サイモン 著
小坂恵理 訳
CCCメディアハウス
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