最新記事

ブレグジット

総選挙後のイギリス、EU離脱シナリオはどう変わる?

2017年6月13日(火)09時00分

6月11日、英総選挙は与党保守党の議席が過半数を割り込み、欧州連合(EU)離脱交渉に向けて求心力を強めるというメイ首相の賭けは裏目に出た。写真はロンドンで3月25日撮影(2017年 ロイター/Peter Nicholls)

英総選挙は与党保守党の議席が過半数を割り込み、欧州連合(EU)離脱交渉に向けて求心力を強めるというメイ首相の賭けは裏目に出た。首相は予定通り19日から欧州連合(EU)の離脱交渉を始めるとしているが、シナリオの修正を迫られそうだ。

以下に新たなシナリオをまとめた。

(1)ハードだが円滑な離脱

メイ首相は3月にEU離脱(ブレグジット)を通知し、EU単一市場と関税同盟を離脱するとともに、欧州司法裁判所による管轄やEU予算への拠出、EU域内からの自由な移民受け入れに終止符を打つ「ハード・ブレグジット」の方針を示した。

首相はまた、移行期間を置いた後にEUと自由貿易協定を結ぶことを望んでいる。

EU側の最優先事項は、英国の離脱による経済の混乱を最小限に抑えることと、EUを守ることだ。つまり英国との不和を抑えつつ、英国が離脱によって得をしないことを示すことで、他国の追随を阻止しようとするだろう。

EU側にとって理想的なこのシナリオでは、今年末までに離脱の枠組みがはっきりし、2018年末までに完全合意し、19年3月には批准される。

しかし──。EUはメイ首相が選挙で議席を増やし、このシナリオに必要な妥協を国内に売り込みやすくなることを期待していた。一部のEU当局者は今、メイ氏がEUに譲歩し過ぎれば失脚するのではないかと考えている。

(2)合意なしのハードな離脱

メイ首相は「悪い合意を結ぶぐらいなら、合意しない方がまし」と述べてきた。

しかし──。EU側は、合意しなければ経済的にも法的にも混乱に陥るため、発言は脅しに過ぎないと考えていた。ところが今、EU幹部らは、英国とEU双方が窮地に追い込まれ、時間切れになるのではないかとの懸念を募らせている。

(3)離脱を撤回

昨年6月の国民投票では、48%の国民がEU残留に賛成した。離脱を撤回する可能性に望みをつなぐ者もいる。

しかし──。英国の2大政党とEUがいずれも離脱を受け入れた今、その希望は失われた。

第一に、撤回を望む新政権を樹立する必要があるが、再選挙を行ったとしても、英保守党内の残留派も、野党労働党にもそれは不可能だろう。第二に、EU基本条約第50条の発動は覆せないという英国の法的見解を覆す必要がある。第三に、英国を除くEU27カ国が満場一致で合意する必要がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中