総選挙後のイギリス、EU離脱シナリオはどう変わる?
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6月11日、英総選挙は与党保守党の議席が過半数を割り込み、欧州連合(EU)離脱交渉に向けて求心力を強めるというメイ首相の賭けは裏目に出た。写真はロンドンで3月25日撮影(2017年 ロイター/Peter Nicholls)
英総選挙は与党保守党の議席が過半数を割り込み、欧州連合(EU)離脱交渉に向けて求心力を強めるというメイ首相の賭けは裏目に出た。首相は予定通り19日から欧州連合(EU)の離脱交渉を始めるとしているが、シナリオの修正を迫られそうだ。
以下に新たなシナリオをまとめた。
(1)ハードだが円滑な離脱
メイ首相は3月にEU離脱(ブレグジット)を通知し、EU単一市場と関税同盟を離脱するとともに、欧州司法裁判所による管轄やEU予算への拠出、EU域内からの自由な移民受け入れに終止符を打つ「ハード・ブレグジット」の方針を示した。
首相はまた、移行期間を置いた後にEUと自由貿易協定を結ぶことを望んでいる。
EU側の最優先事項は、英国の離脱による経済の混乱を最小限に抑えることと、EUを守ることだ。つまり英国との不和を抑えつつ、英国が離脱によって得をしないことを示すことで、他国の追随を阻止しようとするだろう。
EU側にとって理想的なこのシナリオでは、今年末までに離脱の枠組みがはっきりし、2018年末までに完全合意し、19年3月には批准される。
しかし──。EUはメイ首相が選挙で議席を増やし、このシナリオに必要な妥協を国内に売り込みやすくなることを期待していた。一部のEU当局者は今、メイ氏がEUに譲歩し過ぎれば失脚するのではないかと考えている。
(2)合意なしのハードな離脱
メイ首相は「悪い合意を結ぶぐらいなら、合意しない方がまし」と述べてきた。
しかし──。EU側は、合意しなければ経済的にも法的にも混乱に陥るため、発言は脅しに過ぎないと考えていた。ところが今、EU幹部らは、英国とEU双方が窮地に追い込まれ、時間切れになるのではないかとの懸念を募らせている。
(3)離脱を撤回
昨年6月の国民投票では、48%の国民がEU残留に賛成した。離脱を撤回する可能性に望みをつなぐ者もいる。
しかし──。英国の2大政党とEUがいずれも離脱を受け入れた今、その希望は失われた。
第一に、撤回を望む新政権を樹立する必要があるが、再選挙を行ったとしても、英保守党内の残留派も、野党労働党にもそれは不可能だろう。第二に、EU基本条約第50条の発動は覆せないという英国の法的見解を覆す必要がある。第三に、英国を除くEU27カ国が満場一致で合意する必要がある。