ディズニーランド「ファストパス」で待ち時間は短くならない
舞台裏では、統計学者がコンピュータでファストパスのシステムを管理し、人数と待ち時間をチェックしている。アトラクションに新しいゲストが来ると、その人の前に並んでいる全員が──大切なファストパスを握りしめてパーク内にちらばっている「バーチャル行列」も含めて全員が──アトラクションに乗るまでにかかる時間を推測する。そして、今からファストパスを発券する人に、何時ごろ戻ってくればいいかを指示する。
アトラクションの前に並んでいる列は短く見えるが、多くの人が物理的に並んでいないだけだ。新しく来たゲストも順番を抜かすわけではない。つまり、ディズニーのゲストは、ミネソタ州のジュリー・クロスが車通勤のルートを選ぶとき(※編集部注:この第1章では、ファストパスのエピソードと並べて、高速道路の渋滞を解消する「ランプメータリング」のエピソードが取り上げられている)と同じような賭けをすることになる。時間が「信頼できる」ファストパスにするか、それともスタンバイの列に並んで運だめしをするか。スタンバイの列は、たまたま待っている人数が少ないときだったり、ファストパスの時間通りに戻ってこない人がいたりすると、最短の待ち時間で済む場合もある。しかしたいていはファストパスの列より1時間長く並ぶことになり、たとえば次のような不満が募る。
「去年の夏、ピーターパンで1時間並んでいるあいだ、ファストパスの列はスムーズに流れていて、入り口にいるキャストがファストパスの人を優先させすぎているように感じた。こっちは汗だくで並んでいるのに(言うまでもないけれど、パークで1日遊んだ後で、においも決して良くなかった)。癪に障った」
逆の立場だとこんな経験をする。
「大勢の人が、(優先して入れる)私たちが誰か有名人なのだろうかと見ていた。視線をひしひしと感じた」
ランプメータリングと同じようにファストパスも、ばらつきを排除することによって機能する。ファストパスの発券を調整して、ゲストを一定のペースで配置するのだ。アトラクションに集まった人数が収容能力を超えたとき、ファストパスを選んだ人は、ひとまず後で乗ることになる。あるいは人数が一時的に減ると、スタンバイの列に並んでいる人は予定より早く乗れて無駄な待ち時間が減る。このようにして収容能力をできるかぎり最大限に活用するのだ。「行列博士」として知られるマサチューセッツ工科大学(MIT)のリチャード・ラーソン教授は次のように述べている。「ディズニーのテーマパークでアトラクションを待つ列は年々長くなっているにもかかわらず、出口調査によるとゲストの満足度は上昇し続けている」
『ヤバい統計学』
カイザー・ファング 著
矢羽野 薫 訳
CCCメディアハウス
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