最新記事

サイエンス

太陽光だけで大気中の水を収集できる、画期的なデバイスが誕生

2017年4月19日(水)17時00分
松岡由希子

太陽エネルギーを使って大気中から水を収集するデバイスのプロトタイプ CREDIT: UC BERKLEY

<カリフォルニア大学バークレー校とMITの共同研究チームは、太陽エネルギーを使って大気中から水を収集するデバイスを開発した>

大気には、窒素や酸素などのほか、約1〜4%程度の水蒸気が含まれており、地球全体におけるその総量は13兆リットルにのぼる。では、これら大気中の水を効率的に集め、貴重な水資源として生かすことはできないだろうか。

カリフォルニア大学バークレー校とマサチューセッツ工科大学の共同研究チームは、2017年4月、太陽エネルギーを使って大気中から水を収集するデバイスを開発した。砂漠のように湿度20%くらいの地域でも、1日2.8リットルの水を集めることができるという。

このデバイスには、MOF(金属有機構造体)と呼ばれる多孔性物質が応用されている。MOFは、共同研究チームの一員でもあるカリフォルニア大学バークレー校のオマー・M・ヤギー教授が1990年代に開発したもので、マグネシウムやアルミニウムといった金属イオンと有機分子を"球"と"棒"でつながる"組立式ブロック"のように結合させることで、その構造体の内部に生じる空間に気体や液体を貯蔵できるのが特徴だ。とりわけ、ガス吸着や触媒、センサーへの応用が見込まれており、これまでに2万種類以上のMOFが生成されている。


ヤギー教授は、2014年、ジルコニウムとアジピン酸を組み合わせ、水蒸気を吸着するMOFを合成。マサチューセッツ工科大学のエブリン・ワン准教授は、このMOFを太陽光吸収体とプレート式凝縮器で挟み込み、大気から水を収集するデバイスを開発した。夜間、デバイスを開いて大気中の水蒸気をMOFの無数の細孔から入り込ませ、水分子を内部に吸着させると、昼間は、デバイスを閉じ、太陽光で熱することでMOFから水分子を分離させ、凝縮器を通じて水蒸気を液化して水を集める仕組みとなっている。

【参考記事】太陽光だけで二酸化炭素をエネルギー資源に変換する新たな分子が誕生

現時点では、MOFが吸着できる水量は、MOFの総重量の20%にとどまっているが、共同研究チームでは、ヤギー教授を中心にさらなる改良をすすめ、この割合を40%程度にまで向上させる方針だ。

世界保健機関(WHO)と国連児童基金(UNICEF)の共同プロジェクトによると、2015年時点で、世界人口の9%にあたる6億6,300万人の人々が飲料水を日常的に確保できない環境下で生活しており、そのうちの8割が過疎地の居住者だという。MOFを応用したこの水収集デバイスは、送電系統とつながっていない"オフグリッド"な地域でも、気候を問わず、必要な水を確保できるツールとして、大いに期待できそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中