最新記事

カルチャー

『怪談』の小泉八雲が遺していた、生涯唯一の料理書

2017年4月13日(木)11時03分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

訳あって雑誌社と縁を切ったハーンは、日本にとどまるため、英語教師の職を探した。そして最初に赴任したのが、島根県松江の尋常中学校だった。このことについて、本書の監修をつとめた河島弘美氏(東洋学園大学教授。ハーンに関する著書もある)は、次のように記している。


決まった赴任先が松江の尋常中学校だったことは、結果的にみてハーンにとっても、また日本にとっても幸せだったと言えよう。ハーンがいかにこの静かな出雲の城下町を愛したかは、「神々の国の首都」をはじめとするすばらしい文章は言うまでもなく、後年、帰化にあたって出雲の古歌にちなむ「八雲」を日本名に選んだことにもあらわれている。(3ページより)

松江で日本人女性と結婚、1896年に日本国籍を取得して、ラフカディオ・ハーンは小泉八雲となった。

その後、熊本、神戸、東京で英語教師を続けながら執筆活動も精力的に行い、『知られざる日本の面影(Glimpses of Unfamiliar Japan)』『心(Kokoro)』など、日本の風土と文化、そこに生きる日本人の姿を描写した著作の数々を発表。日本文化を欧米に伝えることに大きく貢献した。

代表作は何と言っても、「耳なし芳一」「ろくろ首」「雪女」などが収録された『怪談』だろう。これらの物語が、だれもが知っている"昔話"として現代でも語り継がれているのは、小泉八雲の大きな功績だ。

ハーンは、もともと英訳の『古事記』などを通して日本文化に興味をもっていたという。そして『クレオール料理』が出版される前年、ニューオーリンズで開催された万国博覧会で日本館を取材し、その思いは一層深まっていった。

日本とニューオーリンズ。まるで違っているように思えるが、ラフカディオ・ハーンこと小泉八雲というひとりの民俗学者が、どちらの文化にも強く惹かれたことを考えると、そこには目に見えない類似点があるのかもしれない。

【参考記事】アメリカ人に人気の味は「だし」 NYミシュラン和食屋の舞台裏


 河島弘美 監修
 鈴木あかね 訳
 CCCメディアハウス


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中