最新記事

生理学

「人間の性フェロモン」候補2物質、効果がないことが明らかに:豪研究

2017年3月14日(火)11時50分
高森郁哉

iStock

人間の性的な興奮を誘発する化学物質、いわゆる「ヒトの性フェロモン」と目されてきた2種類の物質が、実際にはそうした効果がないことが、オーストラリアの研究者らによる調査で明らかになった。

アンドロスタディエノンとエストラテトラエノール

西オーストラリア大学の研究チームが英国王立協会のオープンアクセス誌『Royal Society Open Science』に論文を発表し、『エコノミスト』などが報じている。

動物界では、性フェロモンをはじめとするさまざまなフェロモンの存在が確認されており、害虫の性フェロモンを合成して害虫防除に利用する研究なども進んでいる(参照:岐阜大学応用生物科学部「性フェロモンとその防除への応用」)。

一方、人間の性フェロモンはこれまで科学的に同定されていない。しかし長年の研究から、男性の汗と精液に含まれるアンドロスタディエノン(AND)と、女性の尿に含まれるエストラテトラエノール(EST)という2種類の化学物質が、性フェロモンの有力候補と見なされてきた。実際、これらの化学物質を含む香水が「フェロモン香水」として市販されている。

【参考記事】「脳に作用するバイアグラ」が開発? 英研究者が効果を確認

西オーストラリア大の調査

西オーストラリア大学動物生物学部のリー・シモンズ教授らは、異性愛者の白人94人(男性43人、女性51人)を対象に、ANDとESTを用いた実験を実施。この実験では、被験者にも試験者にも実験の仕組みを知らせない「二重盲検法」という手法が採用された。

1回目の実験では、中性的に見える5人の顔写真をコンピュータの画面上に表示し、各写真の人物がどちらの性別に見えるか、また異性だと思った人物がどの程度魅力的かを答えてもらった。この際、被験者は鼻の下に、対照群の香りを含ませた綿の玉をテープ止めされていた。

F1.large.jpg


研究チームは別の日に、同じ内容で2回目の実験を行った。ただし、被験者の鼻の下にはANDまたはESTを含む綿の玉が貼られた。

仮説と結果

もし2つの物質が性フェロモンの働きをするなら、ANDをかいだ女性の被験者は、2日目の実験で写真の人物を男性と判断する率が高くなり、男性と思った人物をより魅力的に感じるはずだ。また、ESTをかいだ男性の被験者の回答にも、同様の変化が起きると考えられる。

だが実際には、ANDもESTも、被験者の回答には一切影響を及ぼさなかったという。シモンズ教授は、こうした結果を受け、「人間にフェロモンがあること自体は確信しているが、これら2種類の化学物質ではないということだ」と述べている。

エコノミストの記事も、「フェロモン香水を買っている人は、お金を無駄にしていることになる」とコメントしている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、一時200円高 円安が追

ビジネス

鉱工業生産11月は2.3%低下、半導体製造装置など

ビジネス

豪株は25年緩やかに上昇へ、利下げが支援 中国経済

ビジネス

11月小売業販売額は前年比 +2.8%=経産省(ロ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2025
特集:ISSUES 2025
2024年12月31日/2025年1月 7日号(12/24発売)

トランプ2.0/中東&ウクライナ戦争/米経済/中国経済/AI......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 2
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3個分の軍艦島での「荒くれた心身を癒す」スナックに遊郭も
  • 3
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部の燃料施設で「大爆発」 ウクライナが「大規模ドローン攻撃」展開
  • 4
    「とても残念」な日本...クリスマスツリーに「星」を…
  • 5
    なぜ「大腸がん」が若年層で増加しているのか...「健…
  • 6
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 7
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシ…
  • 8
    わが子の亡骸を17日間離さなかったシャチに新しい赤…
  • 9
    日本企業の国内軽視が招いた1人当たりGDPの凋落
  • 10
    滑走路でロシアの戦闘機「Su-30」が大炎上...走り去…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 4
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 5
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシ…
  • 6
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 7
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 8
    9割が生活保護...日雇い労働者の街ではなくなった山…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 4
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 5
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 6
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 9
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 10
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中