トランプ政権誕生と中国
「一つの中国」原則は中国にとって最大の核心的利益であり、たとえ米中の国交を断絶してでも守り抜くだろう。へたすれば戦争になる可能性だって否定できない。
しかし中国には弱みがいくつかある。
一つは、どんなに中国が経済大国としてだけでなく軍事大国としても成長したとはいえ、アメリカには勝てない。特に軍事力において、いま戦争することはできないのである。
習近平国家主席は、中央軍事委員会主席として中国人民解放軍に「いつでもすぐに参戦できる態勢を取り、参戦したからには絶対に勝利すると覚悟せよ!」と厳しく訓示を垂れてきた。
その戦争相手が誰であると想定しているのかは別として、絶対に勝利すると考えられる戦争でないと、自分の方から開戦することはできないだろう。
もう一つには、中国の経済はトータルのGDPでは日本を抜いているものの(日本の2倍以上)、1人当たりのGDPとなると世界ランキングで80位前後。貧富の格差が激しいのだ。おまけに党幹部の底なしの腐敗問題を解決することに手詰まりを覚えている。逮捕しても逮捕しても尽きることなく蔓延し過ぎている。ここで戦争などが起きたら、一党支配体制は崩壊するだろう。
第一列島線に空母「遼寧」が姿を現し、「つぎは第二列島線」と中国は豪語した。
そして習近平国家主席はダボスでアメリカのバイデン副大統領と会談し、「オバマ政権時代、米中は新型大国として互いに認め合い仲良くやってきた」と述べた。新型大国関係をアメリカが認めたとは思えないが、中国としては第二列島線の東の太平洋をアメリカが、西の太平洋を中国が、それぞれ「制覇する」という形のパワーバランスを夢見てきた。
しかし、そのアメリカが「一つの中国」原則をめぐって中国と対立し、せっかく蜜月を演じてきたロシアのプーチン大統領をトランプ大統領が「受け入れる」とすれば、日米同盟が揺るがないという条件の下で、日米露三カ国による「対中包囲網」ができ上がる可能性がある。
外交安全政策に関して、中国はいま、弱い立場にあるのである。
オバマ政権の延長線(ヒラリー・クリントン政権)だったとしたら、こういう事態は起きていなかっただろう。
その意味では、「中国をのさばらせてきた」アメリカが、責任を取る形になる。