シンプルでちょっと弱気な新生ガガ様
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Will Heath-NBC-NBCU Photo Bank/GETTY IMAGES
<新作アルバム『ジョアン』で、カントリーやフォーク風の素朴なサウンドに乗せて「等身大の自分」を歌うレディー・ガガ。奇抜な衣装を脱いだ30代の彼女が向かう先は?>(写真:10月にはテレビ番組でナチュラルなスタイルも披露した)
ねえ、どこに行こうとしているの? 教えて、どこに行くつもりなの?
新アルバム『ジョアン』のタイトルトラックで、レディー・ガガは呼び掛ける。アコースティックギターとパーカッションをバックに歌う声はハスキーで、実年齢の30歳らしくもあれば年を重ねたようにも聞こえる。
いとおしそうに語り掛ける相手は、父方のおばのジョアン。詩人志望だったジョアンはガガが生まれる前に亡くなったが、今もインスピレーションの源だ。
「どこに行くつもりなの?」は自分自身への問い掛けでもある。「生肉ドレス」や奇抜なメークで世間を驚かせてきたガガは、近年の音楽界で最も劇場型の歌姫だ。その彼女が新作『ジョアン』では「レディー・ガガ」を捨て、素顔のステファニー・ジョアン・アンジェリーナ・ジャーマノッタに立ち返って再出発しようとしている。
ジャケット写真からして、ピンクの帽子をかぶっただけの地味な装い。エキセントリックな衣装ともサイボーグめいた音楽とも距離を置き、『ジョアン』ではアメリカンなカントリー音楽とブリティッシュなエルトン・ジョンをミックスしたような環大西洋的ミュージックを繰り広げる。
ガガと一緒にプロデュースを手掛けたのはイギリスのマーク・ロンソン。エイミー・ワインハウスやブルーノ・マーズの作品で知られる彼は、レトロなサウンドを復活させる達人だ。
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カントリーをファンキーに料理した「A-YO」に、ニューウェーブにアリーナロックを融合したシングル「パーフェクト・イリュージョン」。インディーズフォーク界の奇才ファーザー・ジョン・ミスティが参加した「シナーズ・プレイヤー」では、よりストレートな今のカントリーを聞かせる。
電子音に乗せて愛と平和を歌う「カム・トゥ・ママ」もミスティとの共作だ。ジャニス・ジョプリンが70年代半ばまで生きていたら、こんな曲を歌っていたかもしれない。意外なところでは、ハードロックのクイーン・オブ・ザ・ストーン・エイジのジョシュ・オムが数曲で素晴らしいギター演奏を披露している。これはどちらのファンにとっても衝撃のコラボレーションだろう。
レイプ体験も赤裸々に
女性にエールを送る「ダンシン・イン・サークルズ」など、コアなファンに向けた曲もあるけれど、今のガガはみんなと一緒に前へ進みたいらしい。
もちろん、ガガは昔から時代の先を行っていた。有名になってから名声について歌う歌手は珍しくないが、彼女は最初から名声をテーマとしていて、08年のデビューアルバムも『ザ・フェイム』と題していた。
3枚目の『ボーン・ディス・ウェイ』は、もっと政治的にリベラルだった。音楽的には80年代のマドンナやプリンスっぽかったが、LGBT(同性愛者などの性的少数者)のシンボルとなるには十分だった。