【写真特集】究極の選択をするアメリカの本音
ヤシン・ハック(37) ニューヨーク市の更生施設勤務――妻のナシマ(34)、娘のインシア(11)、息子のリハーブ(9)と共に。ベンガル人のイスラム教徒で、米市民権を取得した。夫婦2人ともクリントンに投票予定だ。「究極の選択だがヒラリーのほうが多様性を認めている」とヤシン。ナシマは「最近はベールを着けていると変な目で見られる。たぶんトランプのイスラム教徒に対する発言のせい」と語る
<今年の米大統領選は「嫌われ者」同士の対決。有権者はどのような理由で誰に投票するのか。ドナルド・トランプの「地元」であり、ヒラリー・クリントンの政治基盤でもあるニューヨーク州で、両候補支持者の声を聞いた>
今年の米大統領選は、言わば「嫌われ者」同士の対決だ。共和党のドナルド・トランプと民主党のヒラリー・クリントンは、「アメリカ史上最も不人気なライバル候補」とされている。8月末の時点で、有権者の不支持率は両者とも約60%に上った。
それでもアメリカはどちらかをホワイトハウスの長に選ばなければならない。どちらも支持しない人でも、より嫌いな候補の当選を阻止するために、もう一方に投票せざるを得ない「究極の選択」を迫られている。
本誌は10月上旬、ニューヨーク州でトランプ支持者とクリントン支持者の声を聞くべく、一般人への取材、撮影を行った。同州はトランプの出身地でビジネス基盤でもある「地元」。対するクリントンにとっても大事な政治基盤だ。彼女は01年から8年間、ニューヨーク州選出の上院議員を務めた。
ところが実際は、政治的な場以外で2人の熱心な支持者を見つけることは容易ではなかった。世論調査によれば、同州での支持率はクリントンが約50%、トランプが約30%。これには候補者本人ではなく民主党や共和党を支持している場合も含まれる。
多様な人種が集まるニューヨークはリベラル色が強く、大統領選では88年以降、民主党候補の勝利が続いてきた。だがファーストレディー時代から政界にどっぷり漬かり、特にウォール街との関係で黒い疑惑も絶えない「政治屋」クリントンを信用できないとする声は根強い。それでもクリントンに投票するのは、「トランプという最悪の選択肢よりはましだから」という本音も聞こえてくる。
トランプへの熱心な支持を公言する人を見つけるのは、クリントン以上に難しかった。特に高学歴の共和党員はトランプが候補であることを恥じている様子で、トランプを支持はしないが党の理念存続のために「仕方なく」投票すると、小さな声で答える印象だった。
先週時点までの世論調査どおりなら、大統領選ではクリントンが手堅い勝利を収めることになる。気になるのは、表に出てこない「隠れトランプ支持者」の動向だ。クリントン勝利の予想に安心した浮動票層が投票に行かなくなれば、「クリントン阻止」の票が逆に上回る可能性もゼロではない。
11月8日、アメリカはどのような選択をするのだろうか。
小暮聡子(ニューヨーク支局)
【参考記事】<ニューストピックス>決戦 2016米大統領選
ケイティー・ファーメフレッツォ(18)
高校生
マンハッタン近郊スタッテン島のアイスクリーム店のアルバイト店員。大統領選は18歳から投票権が認められているが、投票するかどうかは分からない。だが、もし投票するならトランプだ。理由は「ヒラリーは主張がころころ変わるし、政治的に腐敗していて嘘つきだから」。1つの家族から2人の大統領が出るのも良くないと考えている
オマール・サンチェス(30)
洗濯サービス業
メキシコからの移民だが、現在はアメリカ市民。「自分は合法的にアメリカにやって来た。不法入国する連中は嫌いだ。だからトランプの移民政策を支持している。彼が好きだし、彼に投票するつもりだ」と語る。トランプはこれまでメキシコからの移民を「レイプ犯」と呼び、国境沿いに壁を築き不法移民は強制送還させるなどと発言している
マイク・ファイン(35)
コメディアン/ライター
ニューヨーク生まれ、ニューヨーク育ち。民主党に党員登録しているが、今回はトランプに投票する。理由は、クリントンのような腐敗した「政治屋」は権力を乱用するから。トランプも嫌いだが、「ビジネスマンだからいろいろな人との交渉の仕方を知っている」。全米ライフル協会(NRA)の会員であり、クリントンの銃規制も懸念材料だ